近年、アーティストやアイドルなどを応援する「推し活」が広がり、ある調査では日本のおよそ3人に1人が「推し」を持っていると言われている。なぜ人々は「推すのか」、そしてなぜ推し活や応援にここまでのお金と時間を使うのか。NTTデータ経営研究所で脳科学の視点から推し活について研究している髙瀨未菜氏は、同じ推し消費をしているファンでも、その動機は異なると話す。それぞれの消費がどのような心理から行われているのか。企業のための「脳科学視点で読み解く、推し活における消費行動のメカニズム」について聞いた。
同じアイドルのライブに、何度も足を運ぶ2人のファンがいます。2人はそれぞれ、何を求めて通っているのでしょうか。例えば1人は、生の歌声を聞き、表情や言葉に触れることで、推しを身近に感じたい。もう1人は、自分も客席を埋める1人として公演を支え、推しがもっと大きな舞台へ進む力になりたい。2人ともチケットを買い、会場で声援を送る。購入履歴だけを見れば、同じ「熱心なファン」です。しかし、同じライブに通うという行動でも、その動機は異なります。
私は人生の半分以上をオタ活・推し活に投じてきました。その経験と、脳科学・心理学の知見を事業に活かす仕事に従事する中で感じている疑問があります。それが、現在の推し活による消費行動が「好きの強さ」だけで説明されていることです。
親しさを感じる時間を求めているのか、推しや作品の未来に貢献したいのか。お金を使う目的までわからなければ、次に喜ばれる商品や体験を考えることは難しいでしょう。
ここでは、この違いを「近づく消費」と「支える消費」という2つの視点から考えます。注意したいのは、同じ人が両方を求めることもあり、ファンを2種類に分ける論ではないということです。それぞれの消費がどのような満足につながり、次の購入を考える理由になりうるのかを読み解きます。
推しとの心理的距離を縮める「近づく消費」
まず「近づく消費」。これは、推しの存在を身近に感じ、親密な関わりを体験して、心理的な距離を縮めるために行う消費です。そして心理的な距離とは、実際の身体的な近さではなく、本人が対象にどれほど親しさやつながりを感じているかどうかを指します。
ライブに行ってアイドルを生で見たり、アニメのキャラクターのグッズを部屋に飾ったりすることも、この「近づく消費」の1つと言えます。
過去の研究では、グッズの購入が、キャラクターとの親密さを感じるきっかけになることも示唆されています。例えば、キャラクターとおそろいのグッズを「彼(キャラクター)からのプレゼント」という商品コンセプトで販売すると、単に自分で買ったものではなく、「キャラクターから受け取った贈り物」として意味づけられることがわかっています[1]。つまり、そこに「キャラクターとのつながり」を感じられることが、商品の価値につながるということです。
こうした「親しさ」と消費の関係は、実在するアイドルのファンを対象とした研究からも考えることができます。
K-POPアイドルのライブ配信視聴者を対象にした研究では、配信中に相手を友人のように感じたり、相手と一緒にいるような感覚を持ったりする程度が高い人ほど、その相手への愛着や継続的な支持も強いことがわかりました。さらに、こうした愛着や支持の強さは、そのアイドルの配信コンテンツを購入したいという消費意向とも関連することがわかりました[2]。このことから、推しを身近な存在として感じることは、さらなる「近づく消費」につながる可能性があります。
また、推しの声を聞いたり、姿を見たりするといった「推しに触れる体験」そのものにも、繰り返し求めたくなる価値があると考えられます。例えば、好きなミュージシャンの声を聞いたときの脳活動を調べた研究では、他の人物の声を聞いたときと比べて、推しの声を聞く条件では、報酬への期待や、それを得ようとする動機づけな...


