あらすじ
*この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
西日本を中心に運送・倉庫事業を展開する伊与澤運輸。その社員が覚せい剤所持で逮捕された。しかも現時点での逮捕者は7人にのぼり、本社の部長職の関与も疑われていた。広報部長の川田慎吾は対策本部を設置し、対応に追われる。責任を取ろうとしない社長の醍醐文太を説得し、何とか記者会見を開催したが……。
危機対応の幕開け
広報部の執務室は、本社ビルの五階にある。東西に細長く取られた間取りの一番奥。窓の外に広がるのは、港町・神戸の街並みと神戸港の青い海だ。
川田慎吾は、革張りの椅子に深く座り、朝刊の一面を無言で見つめていた。伊与澤運輸―西日本を中心に120億円規模の運送・倉庫事業を展開する老舗の中堅企業。だが、その名が新聞に載ったのは、業績でも新規投資でもなかった。
「運送業界に衝撃 伊与澤運輸の社員、覚せい剤所持で逮捕」
「部長、さっきから電話が止まりません」声をかけてきたのは、若手の広報担当・入江周大だった。きっちり整えた七三分けに、ほとんど感情の見えない声。彼の前職は財務部で、広報に乗り気でない様子が日々の態度に滲んでいた。
「当然だ。出たからな。もっと増えるぞ」「でも、覚せい剤って……たしか、最初の逮捕は地方の営業所の社員だったはずですよね?」「そうだ。だが、ここからが本番だ」
川田は立ち上がり、入江の顔を見つめた。「入江、今のうちに記者対応の想定問答をまとめておけ。コメント案も3パターン用意しろ。あと、報道内容を整理して社内共有資料もつくる。分かるな?」「は、はい……」入江は明らかに戸惑っていた。表情のどこかに「まさかこんな大ごとになるとは」という不安とどこか他人事が入り混じった表情をしている。
川田の席の内線電話が着信を告げた。「川田さん、社長から至急会議室に来るようにとのことです」秘書室長の上擦った声が聞こえてくる。「……了解した」川田は一呼吸おいて、ジャケットを手に取った。その後に入江も続く。
本社10階の役員会議室に入ると、既に社長の醍醐文太が苛立った様子で腕を組み、他の役員たちに目を配っていた。鋭い眼光を放ち、室内に漂う空気はぴりついている。
「で、どうなってるんだ?マスコミはうちの名前を報じたぞ。どうして...

