企画書を経営の言葉に翻訳 「広報の自己満足」を超える企画書設計の視点

公開日:2026年7月06日

  • 片岡英彦氏(東京片岡英彦事務所)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

企画書を「翻訳装置」として機能させるには

年間企画書が経営会議で通らないという相談を受けたことがある。資料には背景、目的、施策、スケジュール、KPIはひと通り整理され、担当者の問題意識も明確。しかし、経営層の反応は「広報の自己満足では」「会社の何が変わるのか」と厳しいものだった。施策もKPIも整理されているのに、なぜ通らないのか。経営の判断を前に進める広報企画書にするには何を変えればよいか。今回は、広報の言葉を経営の言葉に置き換え、企画書を「翻訳装置」として機能させるための考え方を整理したい。

企画書を「翻訳装置」にする

広報部門と経営層のズレ

資料は丁寧に作られている、にもかかわらず会議で通らないのは、広報部門が伝えたいことと経営層が判断したいことの間にズレがあるからだ。広報企画書は、経営の判断を支えるための資料だが、多くの企画書は「広報部門が何をしたいか」を中心に組み立てられている。「メディアでの露出を増やしたい」などは広報活動として自然な発想であり、必要な施策ではあるが、経営層が知りたいのは、「その発想や施策から何が変わるのか」だ。経営層の問いにつながっていなければ、どれだけ丁寧な企画書でも、広報レベルで止まってしまう。

そこで必要になるのが、企画書を「翻訳装置」として捉える視点だ。広報の言葉を経営の言葉に置き換える。施策の説明を意思決定の材料に変える。活動量の認識や行動の変化に結びつける。広報企画書は、こうした翻訳ができて初めて、経営の議論に乗せることができる。この翻訳を間違えると、企画書は丁寧な活動報告になってしまい、経営層の判断は進まない。経営会議で必要なものは、経営として投資する意味を判断できる資料だ。

視点1
活動計画を経営課題の言葉に置き換える

原因は翻訳の不足

企画書が通らないとき、現場は「説明が足りなかった」などと総括し、補足資料を増やす。しかし、資料が丁寧になるほど経営の判断に近付くかといえば、そうでない場合が多い。翻訳の不足が原因だからだ。

「メディアへの露出を増やす」と書く代わりに「採用候補者が当社を知る入り口を増やす」と置き換える。社内報の刷新ではなく、「経営方針が現場の判断に達するまでのスピードを上げる」と書く。施策の中身は何も変えず、経営が判断できる言葉へと組み替えただけだ。企画書の冒頭に置くべきものは、経営課題であるべきだ。

図1の3点が曖昧なまま施策を並べると、企画書は広報部門の活動一覧に陥りやすい。反対に、これらが明確になっていると施策の必要性、KPI、体制、予算の説明も通りやすくなる。企画書の冒頭は、経営判断の入り口であると考えたい。

視点2
曖昧な宛先を「判断基準」にする

経営層でも着眼点は異なる

企画書を書く前にぜひ確認しておきたいことがある。「この企画書を最終的に判断する人は、何を根拠に動くのか」ということだが、これにすぐ答えられる広報担当者は意外と少ない。多くは、経営層、役員会、社長、といったような答えであり、間違いではない。しかし、企画書の設計としては少し粗い。「経営層」という言葉は便利であるが故に、企画する人の思考を止めてしまうことがある。それは、経営層でも見ているものはそれぞれ違うからだ。社長は会社の変化と意思を、CFOは投資対効果とリスクを見るだろう。人事担当役員であれば採用や組織への波及を見るかもしれない。事業部長は売上や顧客接点への接続を細かく見ていることが多い。広報管掌の役員はレピュテーションや社内外の整合を見ている可能性がある。

にもかかわらず、企画書の宛先を「経営層」と一括りにすると、誰の判断も強く動かさない資料になりやすい。企画書は、誰が何を判断するための資料なのかを明確にした方が説得力は高まる。読み手は社外の生活者ではないが、意思決定者にも関心や不安はある。インサイトという言葉が分かりにくければ、「その人が表には出さないが、判断に影響している関心や不安」と考えればよい。

社長が本当に気にしているのは、会社の変化が社内外に伝わるかどうか、かもしれない。CFOが気にしているのは、効果が見えない投資の積み上げかもしれない。こうした違いを無視したまま企画書を書くと、論点がぼやけてしまう。反対に、意思決定者の判断基準を把握してから書くと、同じ施策でも説明の入り口から変わってくる。

ある企業の広報部門が、ブランド発信強化のための企画書を作っていた。企業理念を伝えるコンテンツを増やし、社員の声を発信し、外部メディアとの接点を広げるという、ごく当たり前のものだったが、経営側の反応は鈍かった。企画書を誰が判断したのか確認すると、最終的に強い関心を示していたのは社長と人事担当の役員だった。2人が気にしていたのは、採用候補者から「安定しているが、挑戦の機会が少ない会社」と見られるか否かだった。

そこで企画書の入り口を...

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