【あらすじ】
*この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
かつての職場・七郷不動産で役員の背任行為が発覚し、危機管理コンサルタントとして相談を受けた甲斐田了吾。広報部長の三崎浩太に頼まれて会議の席に参加すると、経理担当執行役員の押田道彦と総務部、財務部、広報部、監査部、法務部、資材部の部長や担当者が顔を揃えていた。しかし策を持つ者は誰一人いなかった。
どんな仕事にも意義がある
「じゃあ、どうすればいいんですか」総務部長の大門遼河が渋面をつくる。「公表すればいい。覚悟を持って」甲斐田了吾が事もなげに言う。「七郷不動産の社員じゃないからそんなこと言えるんですよ……」大門が吐き捨てる。
こいつらは戦う前から負け犬だな……妙案もなければ策もない。だからと言って“俺がやる”という奴もいない。腐ったみかんは周りを侵食する。「確かに私はもう部外者です。会社は何のために存在しているのか。誰のためにあるのか。公表すらしようとしない会社にアドバイスしても無駄ですね。私はこれで」甲斐田が席を立ち会議室のドアに歩を進める。
「ちょっと待ってください」広報部長の三崎浩太が慌てたように呼び止める。「甲斐田さんのアドバイスが必要なんです。席に戻っていただけませんか」「私はこの会社にとって迷惑な人間なんじゃないのか」会議室には経理担当執行役員の押田道彦と総務部、財務部、広報部、監査部、法務部、資材部の部長や担当者が顔を揃えていた。甲斐田がゆっくりと全員を見回す。もったいぶって席を立ったのではない。
この会社の売上が伸びているのは、現場の社員たちの努力あってのものだ。それを役員と管理職が食い物にしている。甲斐田はそう感じていた。“失敗は部下のせい、うまくいけば自分の手柄”その姿勢が常務取締役の川端洋治と取引先社長が七郷不動産の利益を搾取していた今回の事件につながっている。川端を特別背任罪で告発し公表すべきだった。
「甲斐田さん、公表は避けられないんだろうか」押田が苦しそうに言ってくる。ドアノブにかけた手はまだ離していない。「役員のひとりが取引先の社長と結託して会社の利益を搾取していた。これは事実なんですよね?」甲斐田の問いかけに肯定するように頭を前後に動かす押田。甲斐田は口角を上げ笑顔をつくってみせる。「あなたがたは何を怖がっているんですか?公表したら何かまずいことがあるんですか?自分の立場が危うくなるとでもお考えなんですか?」「そ、そんなこと思っているはずがないだろ、失礼な」指摘が当たっていたようだ...

