常務取締役の特別背任が発覚問われる広報の“覚悟”〈中編〉

公開日:2025年9月10日

      【あらすじ】

      *この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。

      1年前まで七郷不動産で広報部長を務めていた甲斐田了吾のもとに、かつての部下・三崎浩太から相談の連絡が入った。“実質的な社長”といえる常務取締役の川端洋治と、取引先である那須野資材の社長が結託し、背任行為に及んでいたという。三崎は社長の許可を取り、甲斐田に危機管理のコンサルティングを依頼した。

      何のために働くのか

      「あなた方は会社を何だと思っているんですか」

      今から一年半ほど前。社長以下の取締役、執行役員全員が出席して行われる定例の拡大役員会。当時、広報部長だった甲斐田了吾は取締役五人に向かって語気を強めた。「広報部長、立場をわきまえろ!」取締役の一人が声を荒らげる。「十分わきまえています。そのうえで発言しているんです」こんなとき“申し上げています”とへりくだった言い方をする奴がいるが、取締役という地位にしがみつき、年功序列が当然だと思い込んでいる“老害たち”に遠慮をするつもりはない。

      「七郷不動産はあなた方取締役のものじゃない。従業員、お客様、取引先、株主のものなんです」「そんなことは言われなくとも分かっている」「だったら責任を取るべきでしょ」「誰が何の責任を取るというんだね」太く響く声だった。“実質的な社長”常務取締役の川端洋治が甲斐田を睨んでくる。会社の売り上げを伸ばしたのは川端の力が大きい。今では社長の大須賀与一でさえ口を挟むことはほとんどない。

      「今回の事業は失敗ではないですか?開始から三年、利益を出していないばかりか他の事業の足を完全に引っ張っています。川端さんが責任者として立ち上げた事業ですから、何らかの責任を取るのは当然ではないですか」“このまま黙って見過ごすわけにはいかないんだよ、会社はあんたらの私物じゃない”「甲斐田、広報は黙って広報の仕事をしていてくれ。範疇外のことに口を挟むな」

      この会社で働く社員にはほとほと愛想が尽きている。ただ、ずっと世話になってきた七郷不動産という会社は好きだった。「部門は関係ないんじゃないですか。この会議は出席者がただ結果を聞かされているだけの報告会ですか?那須野資材から事情を聴いてしっかりとした調査を行い、結果次第では損害賠償を検討していくべきでしょう」

      那須野資材は地域でも有力な建設資材会社だった。七郷不動産は、地域住民の交流の場として建設した施設「ミライ」を新事業として開業したが、年間売上は目標の半分も満たしていない。この施設建設を提案してきたのが那須野資材だった。そして事業は川端の一存で進められた。

      「ふん」川端が鼻白む。ほかの出席者は...

    この先の内容は...

    広報会議』 定期購読者限定です

    ログインすると、定期購読しているメディアの

    すべての記事が読み放題となります。

    購読

    1誌

    あたり 約

    3,000

    記事が読み放題!

    この記事をシェア

    この記事が含まれる連載

    広報担当者の事件簿

    「まさかのクライシス発生!あなたならどう対応する?」 小説で学ぶ、危機広報。

    MEET US ON