あらすじ
*この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
社員が覚せい剤所持で逮捕された伊与澤運輸。社長の醍醐文太は、謝罪会見で「私は知らなかった」と言い放ち、追及する記者の言葉に席を蹴って退場した。最終的に醍醐は社長を辞任し、大規模な体制の見直しが行われた。そして1年後、広報部長の川田慎吾のもとに、東京支社からSNS投稿についての相談が舞い込む。
"俺がやらなきゃ荷が止まる"
記者会見の翌日、伊与澤運輸はかつてない混乱の最中にあった。
テレビやネットニュースでは、社長である醍醐文太の不誠実な態度が繰り返し報道され、SNSには「責任を取らない社長」「昭和体質の会社」といった辛辣な言葉が並んだ。
醍醐が会見中に言い放った「私は知らなかった」という発言は最悪だった。主要取引先のひとつである神戸港物流連合からは、「今後の契約継続は慎重に判断したい」と連絡が入り、株価は二日で18%下落した。
これまで社長に従っていた役員たちも、露骨に距離を取りはじめている。それでも醍醐は「俺の責任じゃない」と言い張り、ふてくされていた。
そんな中、経理部長の坂田俊介が意外な動きをみせた。「川田さん、実は今朝、監査役から直接連絡がありました。「このままでは会社が潰れる」と」これまで醍醐の前では借りてきた猫のように小さくうずくまっていた坂田の変化に、広報部長の川田慎吾は「......ようやく気づいたのか」と小さく呟き、横に座っていた入江周大に声をかける。
「おい、入江。お前、まだ広報を“腰掛け”だと思っているか?」入江は、一瞬目を伏せ、それから顔を上げた。「正直に言えば、最初はそうでした。でも、今は違います。あの会見を見て、やっと分かった気がします。言葉で、ここまで空気を変えられるんだなって」
東京の有名私立大学を卒業して入社した入江が、叩き上げ広報部長を“自分より下等”としか見ていないことは日頃の言動で分かっていた。プライドだけは高く、とてもお世辞など言える男ではない。「そうだ。言葉には重さがある。信用ってのは、そこから始まるんだ」
その日、社内に「社長辞任を求める嘆願書」が回った。匿名ではない。中堅から管理職、役員も含めて50名以上が署名し、その数は本社に勤務する従業員の70%に及んだ。
「お前ら、今まで俺がどれだけ面倒見てやったと思っているんだ!」署名を突きつけられた醍醐は激高した。...

