「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
広報に問われるのは声を誤読しない設計力
企業は、これまでにないほど顧客の声を集められるようになった。購入後アンケート、NPS、SNS、口コミ。AIによる自由記述分析も今では容易にできる。顧客の声は、顧客との関係を見直すための手がかりとなる。だが、その情報量が増えるほど、担当者は「読めているつもり」になりやすい。たくさん集めたという事実に安心してしまい、どのような文脈で発せられた声なのかを読み解く工程がおろそかになりがちだ。これからの広報企画に必要なのは、声を集める技術ではない。集めた声を誤読しないよう分類し、AIの出力を検証しながら、どの業務判断に使えるのか、どのように顧客へ返すかを設計していく力である。
視点1
顧客の声はデータではなく「文脈」である
なぜ顧客の声を誤読してしまうのか
広報部門からの相談を受けていると、決まって出てくる資料がある。顧客アンケートの自由記述をテキストマイニング(文章データから頻出語や傾向を機械的に拾い出す分析手法)にかけ、ポジティブ・ネガティブの円グラフにまとめた一枚だ。そして、持ってきた担当者は「顧客の声を可視化しました」と、たいてい自信満々である。
だが、その円グラフを根拠に広告のコピーを直したり、FAQを書き換えたりする段になると、途端に議論は空転し始める。数字はそろっている。しかし、次に何をすべきかが誰にも分からない。ポジネガを含む多くの声は集まっているのに、その声が本来何を伝えたかったのか、集計の過程で分からなくなっているのだ。
顧客アンケートの自由記述は、一見すると「顧客の本音」に見える。しかし、そこには必ず文脈がある。どのタイミングで聞いたのか。購入直後か、解約直前か、クレーム対応後か。誰が答えたのか。ヘビーユーザーか、初回購入者か、離脱寸前の顧客か。どんな設問に答えたのか。「満足していますか」と聞いたのか、「改善点はありますか」と聞いたのか。
顧客の声は、発言単体では意味が決まらない。同じ「高い」という言葉でも、意味は違う。「高いが満足している」は価格許容の声であり、「高すぎて次は買わない」は離脱予兆である。「高い理由が分かれば納得できる」は情報設計の課題である。これらをすべて「価格への不満」と処理してしまうと、何を変えるべきかを見誤る。
また、設問設計そのものが、回答の意味を先取りしてしまうこともある。「満足度を10点満点でお答えください」という設問と、「今回の体験について自由にお聞かせください」という設問では、同じ顧客から出てくる言葉の温度が違う。数値尺度を先に見せられた顧客は、感情を数字に翻訳してから答える。自由記述の顧客は、翻訳される前の言葉をそのまま渡してくる。
声が生まれる場所によっても、性質は変わる。SNSで発信される声は、多かれ少なかれ他人の目を意識した言葉である。一方、問い合わせ窓口に届く声は、解決してほしいという実利的な動機に基づく言葉である。同じ顧客が同じ不満を語っていても、SNSではその多くが誇張され、問い合わせ窓口では要件だけが簡潔に語られる。この違いを無視して両者を同列に集計すると、声の温度感を取り違えることになる。
購入直後の声と、継続利用後の声でもその意味は違ってくる。購入直後の満足は「期待していたとおりだった」という評価であり、継続して使った後の満足は「実際に使ってみてどうだったか」という評価である。前者だけを見て「満足度が高い」と判断し、解約率の高さを見落とす企業は少なくない。
そして、声を出している顧客だけを見ていては、判断を誤ってしまう。黙って離脱した顧客は、アンケートにもSNSにも声を残さない。集計されたデータは、常に「声を出した人」のデータであり、母集団全体の縮図ではないという前提を、広報担当者は忘れてはならない。
集計の手間を省くと打ち手もズレる
広報担当者が見るべきなのは、感情のプラスマイナスだけではない。顧客がどの接点で何を期待し、どこで理解し、どこで不安を持ち、何を理由に信頼または不信を形成したのかである。文脈を無視した集計が危ういことは、実際の会議室でよく見る光景を思い出すと分かりやすい。「満足度80点」という数字が出た瞬間、その場にいる誰もが「良い数字だ」という前提で議論を始める。だが、その80点が購入直後の期待値に対する評価なのか、半年使い続けた実感に対する評価なのかで、次に打つべき施策はまったく違う。前者であれば、期待をどうつくるかの広告戦略の話になり、後者であれば、実際の体験をどう改善するかのプロダクト戦略の話になる。この二つを同じ「満足度80点」という数字の中に混ぜてしまうと、どちらの議論も的を外す。
文脈を読むという作業は、実際のところ地味で手間がかかる。だが、この手間を省いた集計は、後工程のあらゆる判断を狂わせる。顧客の声を扱う仕事の大半は、声そのものを集める作業ではなく、いつ、誰が、どんな設問に対して発した声なのかという、声が発せられた状況を復元する作業なのである。この作業は、システムだけでは完結しない。設問文の設計意図を知っているのは、多くの場合、その設問をつくった担当者本人だけだからである。分析を外部のツールやベンダーに委託すると、この意図が引き継がれないまま、生データだけが渡ることがある。すると分析結果を読む側は、数字の裏にある「問いの意図」を知らないまま、データを受け取ってしまう。文脈を読む作業...


