あらすじ
*この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
K&Iソフトウェアの市村徹と上川修が開発した「プレナダ」のコアロジックが共同開発契約を締結したアルトマンに無断で抜き出され、「TeraFrame」としてリリースされた。同じ頃、アルトマンで広報を務める矢部田涼子は会社の姿勢に疑問を抱き、独自に証拠を集め、検証結果を匿名でメディアに送り始める。
進む道は自分たちで選ぶ
入社から10年。商品のリリース配信時期を考え、SNSで話題になれば開発の裏側記事を出し、本社の盛り上げを支えてきた。だが、今回だけはどうしても同意できない。
開発現場から漏れ聞こえてくる新商品「TeraFram」の「未許可コード流用」の噂。これまで組織の一員として、権力とブランドを守るのが務めだと自分に言い聞かせてきた。けれど、今回ばかりは一線を超えている。
矢部田涼子は、迷った末に個人アドレスを通じて、K&Iソフトウェアの上川と市村に連絡を取った。“私が動ける範囲は限られています。ですが、事実と理性があれば、社会は小さな声にも耳を傾けます。それが広報の力だと信じたい”文章に思わず力が入る。理解してくれるといいが……。
矢部田は写真を集め、構造を再検証し、新聞などのメディアに情報提供した。匿名での情報提供だったが、その情報はプレナダとTeraFramの同一性を、一つひとつ論理的に明確化するものだった。
パソコンで作業していたとき、「何をしてるの?」と同僚に聞かれたことがあった。怪伬そうな表情でモニターを覗き込もうとする。「内部向けの設計レビューだよ」と笑顔をつくる。組織の人間には限界がある。真実を公に出せない環境で、それができることのすべてだった。
「矢部田さん、打ち合わせしたいって副社長が呼んでるよ」同僚の女性が声をかけてくる。心当たりはないが会議室へ急ぐ。ドアを開けると副社長の木下慧がソファに座っていた。
木下がコピーされた記事をテーブルに投げ出し、矢部田をまっすぐ見てくる。「この記事に関わっているのか」という質問に「……ひとりの人間として、間違っていることを直したかったんです。組織人としてではなく……」「何をやっているか理解しているのか」木下が目を細める。
「理解しています。ただ……」「何だ」「いえ、何でもありません」「……そうか」矢部田は一礼して会議室を出ようとドアノブに手をかける。「矢部田さん。組織人として...

