大阪の生活日用品メーカー・平安伸銅工業は、暮らしに応えるアイデアアイテムを次々と生み出してきた。その背景には、一貫した視点と設計プロセスがある。そんな同社はいま、モノそのものではなく、設置の不安や失敗まで含めて価値を考える「空間ソリューション」企業へと変化の途中にあるという。その推進役であるCXO(最高体験責任者)の大川昌輝氏に、ヒットを偶然にしないためのアイデア設計術を聞いた。
か消費者の購買行動が多様化し、さらには商品や情報があふれる現在、メーカーの商品開発・企画において「機能が優れている」「価格に競争力がある」だけでは、選ばれる理由として十分ではなくなってきた。加えて、限られた予算やリソースの中で成果を出すことも求められている。そんな状況下で商品開発担当者に必要なのは、リスクをとって商品を大きく刷新することよりも、既存商品のコア価値を見直し、その価値を最大限発揮できるような工夫ではないか。
突っ張り棒など、住空間における「設置」というテーマと向き合ってきた平安伸銅工業は、まさにそれを実践している企業。収納分野は一見すると成熟市場に見えるが、同社は売り方や表現を工夫するのではなく、生活者が商品を使う瞬間にまで目を向けることで、新たな価値をつくり出してきた。その背景には、同社が進めてきた事業構造の再定義と、それを支える現場での思考の積み重ねがあるという。
「モノ売り」から「空間ソリューション」へ
同社は長年、ホームセンターを主な販路とする卸中心のビジネスモデルを築いてきた。商品を安定的に供給する一方で、購入後の体験、とりわけ設置時の不安や失敗は、生活者に委ねられてきた側面もある。CXOとして事業開発、商品開発を担う大川昌輝氏は、この構造そのものが、商品の価値を「店頭で選ばれる性能」へと狭めていると感じていたという。
というのも、突っ張り棒や棚といった設置系の商品は、購入時点で役割を終えるものではない。実際に設置できるかどうか、その過程で不安を感じずに済むかどうかによって、生活の中で価値を持つか否かが決まる。だからこそ近年は、製品を卸すことにフォーカスしてきた自社の関わり方を見直す動きが出ている。
「これまでは製品を確実にお届けすることに注力してきましたが、現在はお届けした先の活用シーンまでを取引先と共に支え抜くことを目指しています。設置時のサポートを含め、本来の価値を最後まで届け切るための研鑽が始まっています」(大川氏)。
この転換を考える上で、大川氏が商品開発の“基本方針”として立ち返っているのが、「収納用品の価値は、どの瞬間に成立するのか」という問いだという。
「CXOとしては、収納用品を設置する瞬間に生活者が感じる“不安”や“失敗したくない気持ち”を、どう軽減できるかをずっと考えています。というのも、当社の強みである突っ張り棒や棚は、買った時点ではまだ価値が成立しない商品なんで...

