日本ならではの文化として注目される自動販売機。進化を遂げて取り扱える食品の幅も拡大し、今や多くの企業が参入する「販売チャネル」となっている。自動販売機の魅力や企業参入が増加する理由、今後の可能性について、“自動販売機マニア”である石田健三郎氏が解説する。
自動販売機に魅了されたのは大学時代。ポーランドから留学中の友人に、「日本に来て一番驚いたのは街中に溢れる自動販売機の姿だ」と言われたことがきっかけです。当時、日本文化史のゼミに所属しており、卒業論文のテーマを決める時期であったため、「自動販売機は日本ならではの文化なのではないか」と考え、調べ始めました。
日本だからこそ流行した
自動販売機という販路
そこからすっかり自動販売機のとりこになってしまったのですが、最大の魅力はなんといってもその“やさしさ”です。日本の自動販売機には、おもてなしの心がたくさん詰まっています。象徴的な例が「ホットアンドコールド」と呼ばれる技術です。これは、ひとつの自動販売機の中で冷たい商品と温かい商品を同時に売る機能のことで、日本人にとってはなじみ深い光景ですが、海外にはほとんど存在していません。実は日本の自動販売機のみの特徴なのです。
その日の気温や気分によって冷たい商品と温かい商品を選択できることは、まさにユーザーに寄り添った“やさしさ”といえます。近年は冷たい・温かいに加えて常温の飲み物を併売するケースも増えてきており、やさしさの幅がどんどん広がっているといえるでしょう。
また、海外の自動販売機を利用したことがある方はよくわかると思うのですが、お金を入れても出てこなかったり、商品が壊れて出てきたりすることもあります。しかし、日本でそういったケースはほぼありません。それどころか、商品が壊れて炭酸飲料が吹き出すことがないように、垂直ではなくゆっくりジグザグに落下させたり、接地面に緩衝材を導入したり。取り出し口の扉の奥にもう一枚扉を付け、その扉で衝撃を吸収して受け止めてから商品を出すなどの仕組みが用意されています。自動販売機の内部にも、たくさんの“やさしさ”が詰まっているのです。
このように独自の進化を遂げ、国民1人当たりの自動販売機普及台数は圧倒的に世界一となった日本ですが、その大きな理由のひとつに治安の良さが挙げられます。日本に設置されている自販機の半数以上は屋外に設置されているのですが、これは、世界と比較しても自販機を狙った犯罪が比較的少ない国であることが関係していると考えられます。いわゆる"自動販売機荒らし”の発生件数も年々減少傾向。このような文化的背景が、今日...