毎年4月、イタリア・ミラノで開催される世界最大規模のデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」。今回の青山デザイン会議では、企業のインハウス部門の視点に注目しました。集まってくれたのは、ミラノ市内各所で開催される「フォーリサローネ」に出展した4社。2024年の初出展に続いて、we+と協働で制作したサイエンスアート作品を展示した、島津製作所デザインユニットの竹川諒さんと中川浩伸さん。これまで計5回ミラノに出展、今回は独自に開発した環境配慮素材の可能性を模索する展示を行った、ソニーグループクリエイティブセンターの廣瀬賢一さんと塩野大輔さん。ポエティック・キュリオシティとともに先進素材を再定義するインスタレーションを手がけ、初めての出展を果たした、三菱ケミカルの根本明史さん。毎回インハウスのデザイナーが主体となって作品を制作し、7回目となるミラノに挑んだ、ヤマハデザイン研究所の川田学さん。なぜ企業は、ミラノを目指すのか。そこから生まれるコラボレーション、そして未来のデザインとは?
アイデンティティを鍛える場
川田:ヤマハのデザイン研究所所長として、楽器・音響機器のデザインを統括しています。手を動かす仕事から離れて18年が経ちますが、デザイン展の活動には今も関わり続けていて、ミラノデザインウィークにはこれまで7回出展しています。
根本:三菱ケミカルは、今年初めてミラノに出展しました。私自身は元々、工学系の研究畑で、今はR &D部門とディスカッションしながら、技術をどう見せるかを考えるのが主な役割。最近ではデザインやアートの方向にも取り組んでいます。
廣瀬:ソニーグループのデザイン部門、クリエイティブセンターでパッケージのデザインやR&Dを担当しています。同センターではパッケージの素材開発からデザインに至るまで、サステナブル視点での活動を行っていて、その中で開発した素材の可能性を具現化する試みとして、ミラノデザインウィークに出展しました。
塩野:同じくクリエイティブセンターで、音響機器のプロダクトデザイナーを務めています。ソニーグループが初めて出展したのは2007年で、今回で5回目になりますが、過去の出展にも関わったことがあります。竹川 2012年に島津製作所に入社して、UIデザインとプロダクトデザインを経て、今はコミュニケーションデザインやブランディングに関わっています。ミラノは2024年以来2度目で、出展にあたっては会社の中でもいろいろ戦っていて(笑)。中川 私は2013年にエンジニアとして入社しましたが、最近ではUXリサーチや、CXデザインのプロセス構築などを担当しています。ミラノは初めてで、イケイケのデザイナーさんたちに囲まれて、おっかなびっくり参加しました(笑)。
川田:周りを見ても、インハウスのデザイン部門が主体になってミラノに出展している事例は、かなり珍しいと思うんです。目的としては、自分たちは何者なのかという「アイデンティティを鍛える」こと。あとは、デザインの可能性を信じていることを表明してデザイン文化に貢献する、というのが2大テーマ。楽器の世界は、進化が見えにくい閉じた領域なので、それを外部に開くという意味もありました。
根本:今回、私はプロデューサー的な立場で参加しました。2019年くらいから、会社の文化を変えようという活動を始めて、東京藝大と一緒に研究会を立ち上げたり、21_21 DESIGN SIGHT の展覧会に出展したり。そんな流れから、デザインスタジオ「ポエティック・キュリオシティ」と繋がって、一緒に出展することになりました。目的は、社内の意識を変えること。デザインやアートといった別の価値観を知ることが大事だと思ったんです。
廣瀬:ミラノに出展するきっかけとなったのは、竹やさとうきびの搾りかす、リサイクルペーパーを原料にした環境配慮素材「オリジナルブレンドマテリアル」を開発したこと。本質的な素材循環を起こしていくことを目指したコミュニケーションマテリアルと位置付けていて、お客さまが実際に触ることで、環境への意識を持ってもらいたいという思いがあったんです。
竹川:きっかけは単純で、僕自身が出展してみたかったという個人的な理由と、島津という会社をミラノに持っていきたい、もっと知ってほしいという思いからでした。実は僕、社外でもデザインやアートの活動をしていて、2021年にミラノに出展していたんです。自分がやりたいことと会社にとって意味があること、その2つをどうしたら接続できるかを考えて実際にプロジェクト化したのが、2024年に初めて出展した「WONDER POWDER」。島津製作所って、BtoB企業ということもあって、積極的にPRをすることが少ないんです。
川田:私たちも同じで、会社の名前こそメジャーですが、実は140年近い歴史を持つ世界で唯一の総合楽器メーカーであることや、かつての工芸品を工業化してきたことも知られていない。デザインに注力しているし、デザイン文化に貢献できるんじゃないかという思いが根幹にありました。
竹川:クリエイションは、10年以上にわたってミラノに出展を続けているデザインスタジオ「we+」にお願いして、彼らとキャッチボールをしながら、僕らは裏で社内的にどう理由を付けていくかジタバタしている。泥臭いことばかりで、デザイナーとしてのキラキラした働き方は、あまりしていない気がします(笑)。
中川:メイン業務は、社内の交通整理。本当に、ただひたすらプロジェクトの意義とか、どういうメッセージを届けるべきかを考えていましたね。
素材や装飾と向き合い、未来を提示する
川田:ヤマハが初めて出展したのは2005年。LEXUSさんの初出展もこの年で、いろいろな企業やブランドがミラノにトライをし始めた時期でした。普通ならブランディングを考えるところですが、我々のスタートは若手デザイナーの登竜門「サローネサテリテ」。当時からインハウスのデザイナーが主体となって発信しているのが特徴で、会場の施工や物流を含めて、できる限...

