短い時間内で言うべき内容を精査する、企業の言いたいことを生活者の聞きたいメッセージに転換するなど、テレビCMの中には長年かけて培われた広告コミュニケーションの技術や考え方が詰まっている。クリエイティブディレクターの小田桐昭さんに、改めてCMクリエイターの持っている技術とは何かを話してもらった。

小田桐 昭(おだぎり・あきら)
1938年北海道生まれ。1961年金沢市立美術工芸大学卒業、電通に入社。松下電器、国鉄、東京海上、資生堂などのクリエイティブディレクション。トヨタ自動車、サントリー等のクリエーティブ・スーパーバイザー。テレビ広告電通賞、サンケイ広告大賞、ACCグランプリを数回受賞。ほかに、カンヌ国際広告映画際金賞、銀賞、IBM部門賞、クリオ賞など海外でも多数受賞。広告のディレクション以外に、絵本、雑誌、装丁のイラストレーションも手がける。
見知らぬ人を動かすCMは「説得」の技術でできている
近年、ネットの台頭によって、広告は「広告クリエイティブより広告コンテンツ」「説得よりもシェアされて広まることが大事だ」というような言われ方をするようになりました。
僕たちが広告の仕事を通じてこれまで何を勉強してきたかといえば、それは人を説得する技術です。見知らぬ人の心をすばやく捉え、心を動かし、ひいては人を動かす技術を極めようとしてきたわけです。単に面白くて人がわっと飛びつくものさえ作っていればいい、というものではありません。だとしたら、この仕事は面白くもなんともない。
DDB 創業者でフォルクスワーゲンの「Think Small.」などの伝説的なキャンペーンを手がけたビル・バーンバックは「説得は科学とアート(アート=技術や表現の意)からできている」と言いました。CMを制作してきた僕らが面白いと思ってきたのは …