顧客との接点を点として捉えるだけでは、真の価値を生み出すことは難しい。学術的にCXは、身体的反応や社会的なつながりまでを含む「多面的な経験」と定義されている。本稿では、経験価値の構成要素である「BASIS」や「PVOT」などのチェックポイントを軸に、ブランドが顧客の心に深く蓄積されるための条件について、小樽商科大学の鈴木和宏教授が専門的な知見から解説する。
「体験」ではなく「経験」と考える
顧客体験の評価や分析というと、カスタマージャーニー・マッピング(CJM)を思い浮かべる方も多いのではないかと思います。CJMには決まった様式はありませんが、おおむね顧客の買い物の「旅」をステップに切り分けて、顧客が使用するタッチポイント、感情状態(ポジティブかネガティブか)、各ステップの満足度を併記し分析するような内容となっています。しかし、顧客体験を把握する際に、感情や満足度だけを見れば十分なのでしょうか。
学術的にはCustomer Experience(CX)はさまざまな要素からなる複合的な概念として研究されています。本稿ではマーケティング論の視点から、CXの質を構成するさまざまな要素を紹介します。貴社のCXを評価する際のヒントとなれば幸いです。
また以下では、CXを和訳する際、顧客“体験”ではなくあえて顧客“経験”と表記します。
顧客経験の基本5次元「BASIS」とは?
では学術的な視点で、顧客経験の要素を見ていきましょう。
そもそもマーケティング論において顧客経験が注目されたきっかけは、Schmitt(1999)の『経験価値マーケティング』です。顧客経験を言葉通り捉えると、顧客のあらゆる知覚が対象になりえるため、企業が到底管理できるものではありませんでした。しかし同著では、顧客が価値を見出す経験は、5つの次元にまとめられ、企業が管理可能なものであると主張しました。
その後、経験価値は顧客経験(CX)として概念化され、測定項目が開発されました。さまざまな追試を経て、CXはやはり基本的に5次元であることが共通認識となりました。
その5次元とは、次の通りです。
- 感覚的経験(sensory experience /五感の反応)
- 感情的経験(affective experience /生じる感情)
- 知的経験(intellectual experience /思考や学習や想像)
- 行動的経験(behavioral experience /身体の動作)
- 社会的経験(social experience /他者との交流や帰属意識)
この基本となる5次元は、それぞれの頭文字をとって「BASIS」とも表記されることがあります。このように、CXは当初から感情以外の要素がある概念であり、これらは評価軸の候補となりえます。...

