世界最先端のクリエイティブから逆算し、いま取るべき進化の方向性を、ブランディング・体験・テクノロジー・アートの各領域を代表する有識者たちと、サイバーエージェントのクリエイティブ精鋭組織「NEW GREEN」のメンバーが議論する本連載。対談を通じて、「NEW GREEN」の思想と、そこから生まれる事例を紹介していきます。第1回は、次世代のブランディングのあり方について、クリエイティブ・ディレクターの古川裕也氏に話を聞きました。
サイバーエージェント クリエイティブ新規事業本部 リードクリエイティブセンター NEW GREEN クリエイティブディレクター / クリエイティブテクノロジスト 藤木良祐氏、古川裕也事務所 代表 クリエイティブ・ディレクター 古川裕也氏
ブランドと生活者の関係性を「体験」から設計する組織
―サイバーエージェントが今年立ち上げた新組織「NEW GREEN」設立の背景について教えてください。
藤木:広告の表現やメディア枠に応じたアウトプットを制作するにとどまらず、ブランドと生活者の関係性を「体験」から設計していく新しいクリエイティブ組織として誕生したのが「NEW GREEN」です。AIをはじめとする先端テクノロジーを積極的に活用し、企業のブランド価値を最大化するコミュニケーションを支援するほか、オープンイノベーションによる課題解決を掲げ、アート、音楽、映画、アカデミックなど幅広い分野の外部クリエイターとも協業し、複雑化する企業課題の解決を目指しています。
古川:「NEW GREEN」のよいところは、面白いこと、楽しいこと、新しいことは何でもやってみようと本気で思っているところです。こういう大きな変わり目にいる時は、そういう態度が、どこかにたどり着くためにいちばん正しいと思います。
カンヌライオンズが示すブランディングの最新潮流
―二人は今年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバルに参加したそうですね。世界最先端のブランディングの潮流をどう捉えていますか。
古川:今年「クリエイティブブランド」というカテゴリーが新設されました。CEOのサイモン・クックによると、「持続的なブランドビルドにつながる企業のクリエイティブな文化・組織・教育・ファイナンス等のロング・ターム・マネジメント体制」を評価する、つまりエージェンシーによるcreative outputではなく、クライアントのシステムを評価する部門と定義されています。初代グランプリには、Budweiser、Stella Artoisなどを持つAB InBevの組織変革プロジェクト『Creativity at Scale』が選ばれました。単発のキャンペーンではなく、有意義で魅力的な企業文化のクリエーションを評価した結果でした。クライアント企業の「インプット(企業のありよう)」にも長期的にエージェンシーが関与すべきで、クライアントとエージェンシーの関係を問い直すことがカテゴリーの目的になっています。とても今日的な問いだと思います。1年で結果が出るブランディングなどありえません。そもそも数十年かけて企業哲学とビジネスの果実を示し続ける息の長い運動なのです。
藤木:今年、カンヌを視察して痛感したことは「オリエンテーションを受けてから表現を考える」という受動的なプロセスでは、次世代のブランド課題に応えられないということでした。クライアントの経営層やCMOと膝を突き合わせ、「そもそも自社やブランドはどうあるべきか」という大元の問いから共に議論を始めることが不可欠だと実感しています。
AI時代における差別化は「意志」と「身体性」
―クリエイティブやブランド表現が平準化していく時代において、企業はどう差別化を図るべきでしょうか。
藤木:AI時代、身体性を伴う直接的な体験や熱量の価値が高まっています。カンヌで高く評価された保険会社サンコープの『Haven』や、アウトドアブランド・コロンビアの『Expedition Impossible』の事例なども、単発的なキャンペーンではなく、ユーザー自身が主体的に参加する「エクスペリエンス(体験)」になっていた点が印象的でした。
古川:AI eraになって、これからより重要になるのが人間にしか持ちえない「意志」と「身体性」。平均的な解ではなく、「どのような哲学に基づき指示や判断をするか」というむしろ主観的直観的身体的なディレクション力です。ブランドの歴史や文脈を深く理解した上で、今までにない視座とアイデアを提示し続けてブランドのrespectを獲得することが、ブランドにいちばん寄与すると思います。
藤木:NEW GREENでは、そうした本質的な課題に向き合うため、社内のトップクリエイターや外部のパートナーとタッグを組み、従来の広告制作の枠組みにとらわれない柔軟なチームで挑んでいます。単なるアウトプットの提供者ではない、クライアントの事業や経営の問いにまで踏み込む姿勢を徹底しています。
古川:クライアントとエージェンシーが「同志」たり得ているプロジェクトだけが、結果として世の中に届く魅力的で意味のある仕事になっていくと思います。
AIへの「ディレクション」と人間にしかできない意思決定
―生成AIやAIエージェントの普及によって、クリエイティブディレクションのあり方にも変化は出てきているのでしょうか。
古川:もはやAIに対してすべきは質問ではなく、ディレクションです。誰が聞いても同じ正しい答えをする存在ではなく、こういう思想と実績と、あえて言うと能力を持っている人が、こういう指示をしている。だからこう働く、という関係になっています。
ここでも人間の意志と主観が問われています。AIはおそらく、独自の高い視座を持つクリエイティブディレクターに対してとてもよく機能するのです。思えばクリエイティブディレクターの最重要機能は、明確な意志を持つことでした。
藤木:担当領域を明確に与えたエージェントを立てることで、より深く精度の高いアウトプットが返ってくるようになりました。実際に、コピーライターやプランナーの思考を学習させた専用のエージェントをチームごとに用意し、それぞれの視点から企画を磨き上げるといった取り組みも始めています。
一方で、生活者とブランドの間にAIというインターフェースが介在する時代になっても、最終的に商品やサービスを選ぶのは人間です。AIに理解され、選ばれるための施策と、人に選ばれるための本質的な価値をきちんと伝えていくこと。その両輪を丁寧に考えていく必要があると感じています。
NEW GREENでも今後、クライアントの経営課題を共に紐解く伴走者として、社会に愛され続ける次世代のブランド表現を提示していきたいと考えています。
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株式会社サイバーエージェント
リードクリエイティブセンター NEW GREEN

