生成AIの台頭により、誰もが高度なクリエイティブを瞬時に生成できる時代が到来した。制作のハードルが下がりインハウス化が進み、広告・制作市場の構造自体が激変する今、企業は外部パートナーに何を求めるべきか。AI活用とマーケティング実践の最前線を走る3名が、これからのブランドの真価を共創していくための、パートナーのあり方を語った。
プロトソリューション 執行役員 日向野信吾氏、XA Holdings 代表取締役CEO 河野貴伸氏、サン 代表取締役会長 田中準也氏
誰に任せるべき? 課題の言語化と構造化
―̶生成AIの登場によって、広告表現やコンテンツ制作の現場は大きく変化しています。現在、クリエイティブ領域において、どのような課題や変化を感じていますか。
河野:最も課題と感じているのが、AIが出力したものを人間の思考によるチェックを挟まず、そのまま横流ししてしまう「ミート・プロキシ(生身の中継役)」という現象が増えていることです。提案においても文章やデザイン、プレゼン資料などを、思考を介さずそのまま提出してしまうケースが散見されます。
田中:そうした出力は、パッと見はきれいに整っているのですが、読んでみると、思考や意図が含まれていない空虚なものであることが多い。提案を受ける側も「これはAIでそのままつくってきたな」とすぐに見抜きますし、そうした提案が増えたことで、見る側にも生成AIに対する否定的なバイアスや警戒感が生まれてしまっています。
日向野:事業会社側から見ても、まったく同じ印象です。背景にある文脈や自社の課題を構造化・言語化できていない提案は、見た目がどれだけ整っていても一目で「ミート・プロキシ」だと見抜けてしまいます。
田中:提案のプロセスも変わりました。人間は、1案だけポツンと出されて「これがベストです」と言われても、比較対象がないと不安で選べないんですよね。洋服を買う時と同じで、いくつかの選択肢を比較検討して初めて、「なぜ自分にこれを勧めてくれているのか」を理解し、安心して決断できる。だから提案現場では昔から、本命案に加えて視点の異なる比較案を含めた「渾身のABC案」を用意し、選ぶ側と一緒に思考を深めていくプロセスを大切にしてきました。ですがAI時代の現代は、その思考段階を飛ばして、単にバリエーションだけを大量に出して選ばせようとする。これでは選ぶ側も迷うだけで、質の高い意思決定にはつながりません。
河野:AIは綺麗な“お手本”を瞬時に出してくれはしますが、「なぜこの表現にしたのか」という根拠や意図まで語ってくれません。クリエイターが自らのノウハウや意図をAIに学習させ、対話しながら突き詰めたアウトプットと、何も考えずにつくらせたものでは完成度の差は明白です。良いものを知っているクリエイティブディレクターの着眼点や選ぶ力があって初めて、提案としての価値が生まれるのだと思います。
―事業会社側でもAIの活用が進み、内製化の動きも見られます。その中で、これからの外部クリエイティブパートナーにはどのような役割が求められるのでしょうか。
日向野:生成AI時代に我々人間に求められている力は、膨大な情報を「構造化」し「言語化」することだと捉えています。背景にあるストーリーやなぜそれが求められているのかという文脈を理解した上で構造化・言語化できれば、AIは非常に強力なツールになる。だからこそ、AIでアウトプットが出せる時代において企業がパートナーに任せるべきは、作業としての制作ではなく、まさにこの「背景を踏まえた構造化と言語化」を共に行うことだと考えます。
田中:AIを使えば、絵心がない人でも綺麗なビジュアルやデザインを簡単につくれるようになりました。ですが、その絵の多くには「脚本」や「ストーリー」がありません。AIは思考プロセスやストーリーを可視化・見える化するためには役立ちますが、広告として世の中に出し、人に届けるために求められるのは「なぜこれを行うのか」という物語や人間側の意図です。
河野:ここ20年ほど、人間がひたすらインターネット上に情報を蓄積してきた結果、ネット上の既存情報を検索・整理して回答を導き出すスピードや正確性において、AIは人間の能力をはるかに凌駕しています。また、近年は、広告業界全体が効率化や最適化ばかりを追求してきた側面もありました。このとき、支援側が事業会社に対して提供できる一番の価値は、ネット空間には落ちていない「リアルな現場での成功・失敗の体験量」にあると考えます。画面上のデータ分析だけに閉じず、実際にお客さまがいる現場やフィジカルな空間に足を運び、生の人間の感情や手触り感を肌で感じ取った上でストーリーを描けるかどうかが、今改めて問われているのだと思います。
田中:例えば、生成AIツールを使って低コストで制作した動画も、テレビCMとして放映されるような数千万円単位の予算を投下して制作した動画でも、よほど興味がない限り、パッと見る分には一見違いがわからないかもしれません。しかし、そのブランドを本当に大切にしてくれているお客さまには、そこに込められた思いや世界観の違いが確実に伝わります。
日向野:そうした真価を発揮するためには、従来の「発注する側・受注する側」という上下関係ではなく、同じ目線で喧喧諤諤と議論ができるワンチームの関係性が必要です。お互いにリスクを取って挑戦し、時には失敗からも学び合えるような深い信頼関係がなければ、ブランドの成長につながる本質的な表現には踏み込めないと感じています。
―AI時代において、事業会社とパートナーは、どのように共創関係を深めていくべきでしょうか。
河野:AIを「自社の思考や意図を整理するための訓練・シミュレーション」として使いこなすことです。パートナーにいきなり具体的なイメージ画像やデザインをつくって渡してしまうと、相手はその絵に引っ張られて自由な発想ができなくなってしまいます。そうではなく、自社の中でAIを壁打ち相手にして「こういう意図を伝えるにはどう表現すべきか」を議論し、要求の精度を上げておく。その上でパートナーに対して「何を実現したいのか、何を期待しているのか」という要件定義を明確に伝えることが重要です。AIとのやり取りと同じで、人間同士の議論でも手抜きを許さず、妥協せずに全力で意思をぶつけ合う。そうした姿勢を持つことが、パートナーから本質的な提案を引き出す第一歩です。
日向野:まさに「発注者と受注者」という一方向の関係を壊し、双方で本音を語り合えるチームづくりですね。ブリーフィングを曖昧にせず、自社が目指す方向性を言葉にしてパートナーに提示し、共に並走していく姿勢が不可欠だと思います。
田中:パートナーシップは双方の意識が変わらないと成り立ちません。このとき、課題を構造化しチームをまとめあげるプロデューサーやエージェンシーのような支援側のプロフェッショナルな営業担当の価値を正しく評価し、その思考や行動に対価を支払う対等な構造へ変えていくことも重要。こうしたワンチームの共創こそが、AI時代にブランドの真価を引き出す道だと考えています。
お問い合わせ
XA Holdings株式会社
URL:https://exal.li/pages/contact
E-mail:contact@exal.holdings

