ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。

閉店中のカフェやレストランが癒しのショーウィンドウに
先日、買い出しのためセーヌ川左岸のサンジェルマン・デプレを歩いていると、ロックダウン下で閉店しているはずの老舗カフェ「ドゥ・マゴ」の前に人だかりができているのが目に留まりました。覗いてみると、お客さまの代わりに巨大なテディベアたちが、我が物顔で座席を埋め尽くしていました。その可愛らしい様子を写真に収めようと人だかりができていたのです。
実はこのテディベア、ここ数年でパリの至るところで見かけるようになり、コロナ禍の癒しとして存在感が一層高まっています。今月は、そのご紹介です。

書店「Le Canon de la Presse」の店先にて。
笑う門には福きたる 人を笑顔にするため自腹で奮闘
大量のテディベアは、まるで映画「テッド」か玩具メーカーのプロモーションのようです。しかし、これは2018年末にパリ13区ゴブラン通りにある書店の店主Philippe Labourel氏が「地域の人たちを笑顔にしたい」と立ち上げた活動です。
書店の店先に何体か置いたところ、行き交う人々から反響があったため「Les Nounours des Gobelins」(ゴブラン通りのテディベア)と名付け、近隣のお店にも貸し出すようになったそうです。地元のさまざまな場所に出没する、人間さながらのポーズをしたテディベアの様子がSNSで広がり、区役所でも大きなイベントが開催されるなどして当時、話題になりました。
昨年ロックダウンに突入してからは、閉店中の飲食店の寂しい店内を飾るのに一役買い、ロックダウンが緩和され一時的に飲食店が営業再開した頃には、店内にテディベアを置くことで、ソーシャルディスタンスを保つことができるとして再び脚光を浴びました。
テディベアを借りたい人は個人であってもFacebookページでリクエストメッセージを送れば48時間、無料で借りることができます。貸し出し条件は、その間、常にテディベアと行動を共にし、重要な瞬間をSNSに投稿することです。つまり、借り手の数だけテディベアが出没する場面とSNS投稿が増えていくのです。
活動の性質からして協賛を受けられそうなものですが、Philippe氏はテディベアを自腹で購入し...