ビジネス変動に応じ多様化する顧客の心を知るには、他分野の知見も欠かせない。文化人類学や社会学で用いる調査様式「エスノグラフィ」もそのひとつ。エスノグラフィを基軸とした人間中心のイノベーション分野で幅広い経験を持つエクスパークの伊賀聡一郎氏が、現代ビジネスにおける顧客理解に、いかにエスノグラフィの知見が生かせるか解説する。
POINT
☑「デジタル転換」と「サービス化」の2軸で変化する現代ビジネス
☑テクノロジーを活用した、新たな「エスノグラフィ」
☑フィジカル/サイバーを超えて誕生する“予期せぬ”ビジネス
サイバーとフィジカルを融合する新たなビジネスの創出
いま、多くの企業にはデジタルトランスフォーメーション(DX)やIoTなど、デジタル/ネットワークテクノロジーを起点としたビジネスの創出が求められています。こうした方向性はA.デジタル転換(Digitalization)とB.サービス化(Servitization)の2軸で捉えられるのではないでしょうか。
A軸はデジタルビジネスへの転換、すなわち新たなビジネスモデル/収益源/価値創造の機会を得るためにデジタル・テクノロジーを活用することです。B軸は文字通り「モノからコトへ」のようなサービス化の流れです。市場は成熟するにつれてコアな製品だけでは差別化できなくなり、製品ラインナップやライフサイクル全般にわたる包括的な価値提供が求められるようになります。
この2軸の概念を模式的に表すと【図表1】のようになります。過去においては「人(生活者)」に対して「モノ」を提供するという1対1の価値提供を考えればビジネスは完結できていましたが、次第にモノの背後にはデータが併存し、データはネットワーク上のクラウドで管理されるようになりました。いま人はそうしたクラウドに紐づけられた多種多様なモノとデータに囲まれて活動しています。人/モノ/データ/クラウドという、これまで異なる組織でマネージされていたレイヤーを一気通貫につなぐことがA軸の意味合いとして重要になります。