行動ログは「何をしたか」は教えてくれるが、「なぜしたか」という意思決定の文脈までは可視化できない。消費者の多くは、合理的な判断ではなく「直感」や「心理的報酬」に突き動かされて行動しているからだ。AI時代にマーケターが真の洞察を得るために必要な視点とは何か。行動経済学のスペシャリストである相良奈美香氏に、顧客理解の解像度を高める術を聞く。
行動データだけでは見えない「意思決定」の真実
―データサイエンスが普及した今、人間の「非合理性」に注目すべき理由は何でしょうか。
行動データは「何をしたか」は教えてくれますが、その一歩手前にある「なぜしたか」という意思決定の文脈は教えてくれないからです。例えば、あるユーザーがNetflixで『フレンズ』を繰り返し視聴しているというデータがあるとします。AIは「類似作品」を推奨しますが、本人の意思決定を深掘りすると、実は「脳が疲れていて、何も考えずに流し見できるものが欲しかっただけ」かもしれません。
この「脳の負荷」という文脈を読み解く鍵こそが、行動経済学が提唱する人間の非合理性です。理想的な意思決定には膨大なリソースが必要ですが、現実は不可能です。多くの人は「最高」を求めるのではなく「これで十分(グッド・イナフ)」という基準で動いています。この不完全な人間...


