テレビCMの効果は長らく「ブラックボックス」とされ、その投資対効果の測定は広告主にとって大きな課題であった。そんななか、テレビCMの透明化・効率化を目指すCMインハウスと、人流データを強みとするunerryが協業を開始。この協業が従来のテレビCM運用をどう変え、広告主の意思決定やPDCAサイクルにどのような価値をもたらしているのか。CMI 代表取締役の田中陽樹氏とunerryリテール&メディア シニアバイスプレジデントの一枝悟史氏に話を聞いた。

CMの詳細な取引データを広告主が可視化・分析できる
2023年11月に設立されたCMIは、「テレビCMの透明化と効率化」をミッションに掲げ、広告主自身が詳細な取引データをリアルタイムに可視化・分析できるダッシュボード型サービス「CM in-house(CMインハウス)」を開発。背景には、従来のテレビCMが持つ「仕組みの複雑さ」「効果の分かりにくさ」という課題があった。特に広告会社への依存構造や、広告会社の担当者のスキルや経験によって広告運用の質がばらつくリスク、さらに取引データが広告会社側に偏在して、広告主側に十分な知見が蓄積されにくいという問題が顕在化していた。
とはいえ、テレビCMは今なお多くの企業にとって重要なマーケティングチャネルでもあるため、「高額な投資であるにもかかわらず、広告主自身が投資の実態を把握しづらい」という根本課題の解決が求められていた。この問題を解決すべく開発されたのが、CMIの「CM in-house」だ。「CM in-house」は従来、広告会社やテレビ局が主にアクセスしていたCMの詳細な取引データを広告主にも開放し、ダッシュボード上でリアルタイムに確認・分析可能にすることで、取引の「透明性向上」と、広告主側の組織にデータ・知見を蓄積することによる「効率改善」を実現させた。
CMIの田中陽樹氏は、「効率化で生まれたリソースを、より本質的で価値の高い業務(広告主のニーズに合った枠を確保するための分析・交渉や、より適正なコストでバイイングを行うための戦略立案など)に集中させることで、結果としてテレビCMの投資対効果の最大化に貢献できると考えています」と語る。
さらに現代では、消費者の嗜好多様化により、従来型ターゲティングの限界や、「テレビCMが実際の来店・購買にどう結び付くか」可視化できないという問題も深刻化している。この課題に対応するため、CMIは人流データを強みとするunerryと協業。unerryの一枝悟史氏は、CMIのデータ透明化への姿勢に共感し、また人流データとテレビ視聴データを連携することで、単なる分析に留まらず具体施策の改善までにつなげられる可能性に惹かれ、連携を決めたという。「データ分析から施策実行、そして効果検証というサイクルを一気通貫でより高度に実現できる大きな可能性を感じ、協業をお願いするに至りました」(一枝氏)。
2社の共同ソリューションでは、unerryが保有する全国店舗の来店データ、流通小売店の購買データ、unerryが提携するResolving LAB社保有のCM接触者データを重ね合わせることで、統合的に分析。これにより、「CM接触者のうち、実際に来店・購買した割合」や「効果的な接触回数」「CM接触から行動までのリードタイム」などを可視化。さらには来店・購買層の「メディア接触傾向」なども明らかにし、CMプランニングやバイイングの精度を高めるインサイトを提供する。さらに、CM接触による純粋な来店・購買リフトを定量的に示すことで、広告投資の事業貢献度を客観的に評価することも可能だ。実際に𠮷野家の事例では、このソリューションによって顧客セグメントごとのCM効果の違いや、CM接触から来店までの日数などが具体的に示された。さらには効果的な放送時間帯として従来、見過ごされがちだった「平日午後帯」が、実は非常に高い来店率につながっていたという発見もあった。
図1 𠮷野家の事例

また地上波だけでなく、コネクテッドTV(TVer)のCM視聴データも掛け合わせた分析も可能で、重複接触による効果が確認された。データに基づき「いつ、誰に、どのようにCMを届けるべきか」という問いに答えが得られるようになったのである。一枝氏は、「データによって確信を持ってキャンペーン設計ができる意義は大きい」と強調する。
CMIは分析結果だけでなく、元となる詳細なCM出稿データを「CM in-house」を通じて広告主に提供。これにより広告主は、テレビCMデータをデジタル広告やCRM、POSデータなど自社が持つ他のデータと統合し、より深く多角的なマーケティングPDCAに活用できるようになる。テレビCM単体でなく全カスタマージャーニーにおけるテレビの役割を自ら検証・評価できる体制が整った。今後の展望として、両社はデータ活用の幅をさらに広げるビジョンを描く。
一枝氏は、「バイイングの最適化から一歩進め、その先にある視聴者にとってより価値のある、あるいは楽しめるテレビCM体験を創出していくことを目指したい」と話す。一方、田中氏は次のように語る。
「例えば、分析を通じて『𠮷野家のCMに接触した人は特定のドラッグストアをよく利用する』『この沿線の交通機関を頻繁に使う』など、顧客の行動パターンや接触傾向が見えてきます。そこから新しい施策やクロスメディア戦略のアイデアが生まれます。現在はテレビCMを起点に、コネクテッドTVやデジタル動画広告でクライアントを支援していますが、今後はOOHやキャンペーン施策も含め、より統合的なマーケティングソリューションへと提供価値を進化させたいですね」。

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株式会社CMI
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