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復活を遂げたブランド戦略

大震災を乗り越え、機械専門商社が見つけた新たな価値

  • 高進商事 小田原宗弘

宮城県仙台市に本社を持つ、機械専門の商社・高進商事。その中心事業は、メーカーから部品や物流機器を仕入れ、さまざまな製造工場に販売することですが、現在は専門商社の枠組みを超えて、ものづくりへと事業を広げています。その代表商品が「防災キット」。未知なる事業への挑戦は、東日本大震災での経験と、小田原宗弘社長の強い思いによって実現しました。震災という不可避の危機をどう受け止め、乗り越えたのか、小田原社長に聞きました。

高進商事 代表取締役社長 小田原宗弘氏

「機械や部品はあるが、誰も救えない」震災の経験で変わった価値観

仙台市に本社を持つ高進商事にとって、東日本大震災で受けた打撃は大きなものでした。本震発生後も、震度5クラスの余震が続き、仕入先も当然工場を稼働できないため、部品が届かない状況が続きました。業務を進行する以前に、あらゆるインフラが崩壊し、コンビニやスーパーもすべて閉まっている。「水や食べ物が手に入らないのではないか」という恐怖を、人生で初めて感じました。

こんなとき、食品工場ならば、自社の製品や原材料を配ることができる。しかし私たちの手元には機械や部品しかありません。震災の危機に直面して、当社の扱う製品では、いざというときに社員や家族を助けることができないと気づいたのです。

震災を経験した企業だからこそ、できる新事業があるのではないか。この考えが、いざというときに本当に必要なものだけを集めた「防災キット」開発の構想につながっていきました。

経験やノウハウはゼロ 自社で商品開発するという決断

とは言え、最初は自社で商品をつくる発想はありませんでした。まず着手したのは、他社で製造している非常時用防災箱の仕入れと販売。これなら、何かあったときに社員や周りの人に配ることもできる。商品の売れ行きは良く、テレビで取り上げられて品切れになるほどの状態になった時も。最終的には6000箱も売れ、需要は確かにある、と感じました。

一方で、取引先の工場やお客さまから「大きな防災箱を買っても、置くところがない」といった声も届いていました。また、私自身は「もう少しスタイリッシュな見た目にすべきではないか」と感じていました。あまりに大きすぎるものや、生活空間に馴染まないデザインのものを買って、押入れの奥にしまい込んでしまっては、いざ災害が発生したときに使えないからです。

「コンパクトでデザイン性の高い防災キットをつくりたい」という思いやアイデアが徐々に芽生えて、企画書を取引先である大手商社のひとつに持って行ったところ、「それなら、高進さんでつくったほうがいい」と言われたのです。

当社は、仕入れと販売が中心のBtoB企業です。一般消費者を対象に商品を販売したことはなく、ましてや商品開発はまったくの門外漢。社員に相談しても、やめたほうがいいと反対されるに決まっています。

しかし、ここが決断の時だと思いました。私の独断で「やる」と決めて、「売れなかったら、全部自分で買い取る」と社員を説得しました。実際に、箱の組み立てからアイテムの箱詰めなど、最初のうちはすべて一人で行っていました。

なぜそこまでして、この商品をつくろうと考えたのか。この防災キットは「絶対に必要なもの」だと思ったからです。災害は、いつどこにでも起き得るもの。手元に何もないことの恐ろしさを自ら経験したことで、そのとき必要なもの、とるべき行動がわかりました。自分の経験を、商品を通じて多くの人に伝達できるかもしれない。その思いが、私を商品開発という未経験領域と突き動かしました。

「THE SECOND AID」。小田原社長が実際に東日本大震災を経験し、「本当に必要」だと思ったものを取り揃えた。

既存事業を通じて培ったつながりが商品化・販売を後押しした

自社で防災キットをつくると決めた時に、絶対に同梱したかったのが、災害時の行動や役立つ知識をまとめた「マニュアルブック」でした。災害時は、スマートフォンやPCで情報を得ることすら難しくなるからです。

頭に浮かんだのは、被災後に書店で買い求めた『OLIVE』という冊子。災害時に有効な情報が、パッと見てわかりやすく掲載されていました …

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プロダクトブランドやサービスブランドは、時代の趨勢によって、そのカテゴリー自体が勢いをなくしたり、またブランド自体のライフサイクルの成熟化に伴い、厳しい状況に陥ることがあります。しかし社会環境の変化、ライフサイクルのステージの変化を乗り越え、新しいターゲットに新しい価値を訴求し、見事に復活を遂げるブランドがあります。どのように時流を捉え、またどのようにターゲットを見定めて、活性化を成し遂げたのでしょうか。その戦略に迫ります。