社員アンバサダー実現に向けた説得力のある広報企画書を書きたい!

公開日:2025年12月04日

  • 片岡英彦(東京片岡英彦事務所)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

リスクを踏まえたうえで戦略を考える。

いま、企業広報の現場で注目されているのが「社員アンバサダー施策」である。消費者や生活者は、広告や公式SNSの一方的な発信よりも、社員による等身大の声に信頼を寄せることがあり、企業が従業員をブランドの語り部に位置付け、制度として育成・活用することは、もはや一過性の試みではなく戦略的広報の中核になりつつある。しかし、現場でこの施策を進めようとすると、「個人の発信を制度に組み込むリスク」など多くの課題に直面する。だからこそ企画書で「目的」「仕組み」「KPI」「リスク管理」を丁寧に設計し、経営層に理解と承認を得る必要がある。今回は、社員アンバサダーを広報戦略の柱として位置づけるために、企画書の要素を実務の視点から考えていきたい。

視点1
背景と目的の明確化

なぜ「社員アンバサダー」なのか?

いま、広報の現場に立つ多くの担当者が感じている大きな悩みのひとつは「広告が効きにくくなった」という実感だろう。SNSのタイムラインは広告で溢れ、ユーザーはスキップや広告ブロック機能で容易に回避する。若年層を中心に「広告=押しつけられるもの」という意識が強まり、公式アカウントの発信も「PRっぽい」と受け取られた瞬間に読み飛ばされてしまう。

一方で、同じ企業の社員が等身大の言葉で発信した内容は、なぜか心に届く。転職を検討する候補者が「入社した人のリアルな声」を求め、就職活動では口コミサイトや社員ブログが参照される。

ある調査では「企業の公式情報よりも、社員のSNS投稿を信頼する」と答えた若年層が6割を超えたという。まさに「広告不信」と「社員発信への信頼」が交差するのが現在の状況である。

こうした背景を受け、社員を「ブランドの語り部=アンバサダー」として制度的に育成・活用する動きが広がっている。しかし、これを単なるトレンドで終わらせず経営施策として位置付けるには、企画書で「なぜ今アンバサダーが必要か」を経営目標と結びつけて明示することが不可欠だ。

経営課題とアンバサダー施策の接続

ところで、広報企画書が経営層に承認されるかどうかは、冒頭の「背景・目的」で決まると言っても過言ではない。

私は社員アンバサダー施策の目的を、広報部門の課題(広告費削減やSNSアルゴリズム対応)だけで語ってしまったことで、「広報の自己満足」と受け取られてしまった経験が過去にある。ここで必要なのは、経営課題の翻訳である。

例えば、以下のように「経営KGI➡広報の役割➡アンバサダー制度」の順に接続すると企画書が通りやすい。

図1 背景と目的の設計ポイント

採用難の改善
経営課題:若手人材の採用競争が激化し、内定辞退率 が上昇。
広報の役割:候補者にリアルな職場の魅力を伝え、内定承諾率を改善する。
アンバサダー制度:若手社員をSNS・イベントで発信者に育て、候補者に「働くリアリティ」を伝える。

顧客基盤の拡大
経営課題:新規事業の導入を検討する顧客層に、ブランド認知が届いていない。
広報の役割:製品の信頼性や導入事例を、現場社員の声で補完する。
アンバサダー制度:開発・営業社員が直接顧客にメッセージを発信する仕組みを整える。

ブランド好意度の向上
経営課題:中期経営計画で掲げる「ブランド信頼度向上」が数値目標として設定されている。
広報の役割:広告換算できない「共感」を醸成する広報が必要。
アンバサダー制度:社員が企業文化や社会的意義を語ることで、好意度を押し上げる。

「経営上の目的」から逆算するストーリーを企画書に冒頭で提示することで、経営層は「これは広報の施策ではなく経営課題解決の一手だ」と直感的に理解できるようになる。

「目的文」の文例

企画書を作成する際には、次のような具体的な目的文を冒頭に置くことを勧めたい。

「当社は中期経営計画において『若年人材の獲得』『顧客信頼の強化』『ブランド好意度の向上』を経営目標に掲げている。本企画はこれを広報部門から支えるものであり、社員を“ブランドの語り部”として育成・活用するアンバサダー制度を新設する。社員発信のリアリティを通じて、採用候補者の内定承諾率改善、顧客への導入後安心感の訴求、生活者に対する共感形成を実現することを目的とする。」

このような一文を置くだけで、企画書全体の論理が一気に整理される。社員アンバサダー施策の企画書は、冒頭で「広告が届かない時代背景」と「社員発信の信頼性」を示し、さらにそれを経営課題と接続した目的文に落とし込むことが肝心だ。この部分を丁寧に書けるかどうかで、その後の施策やKPIの説得力が決まるとも言える。

視点2
ターゲットの定義と社内選定基準

「誰に響かせたいか」を言語化する

社員アンバサダー施策を導入する際、企画書では「誰に、何を伝えるのか」を粒度高く明記する必要がある。特に社員アンバサダーの発信は「個人の顔」が出る分、受け手の「心の変化」を明確に意識しないとメッセージが散漫になってしまう。大きく次の3層に整理するとわかりやすいだろう。

図2 メッセージを届けたいステークホルダー3層

採用候補者
学生、第二新卒、転職希望者。彼らは社員のリアルな言葉を信頼する。内定承諾率を上げるためにも、公式説明会だけでなく社員の等身大の声が不可欠である。

顧客・取引先
製品導入を検討する現場の担当者層。営業資料や広告だけではなく、実際に製品を扱う社員のリアルな体験談が説得力を持つ。

株主・地域社会
企業文化や人材育成の姿勢を測る指標として社員発信を注視している層。社会的信頼を左右する。

複数のステークホルダーを整理した上で、「採用候補者には就業体験」「顧客には製品信頼性」「株主には企業文化」といったように、メッセージをターゲット別に切り分ける必要がある。これを表形式(マトリックスも可)で企画書に入れると、経営層は「誰に何を届けるか」を一目で理解することができる。

社員アンバサダー候補の人物像(ペルソナ設計)

外部ターゲットを定義した次は、内部ターゲット、つまり「誰に語らせるか」を決めるステップに入る。ここが曖昧だと「発信したい社員が自由に投稿している」と見え...

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