「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
人は情報ではなく“感じ方”で動く
企業や自治体が丁寧に情報を発信しても、「良い内容なのに反応が薄い」「合理的に説明したのに動いてもらえない」などの悩みを抱えることがある。行動経済学は、こうした “理屈では説明できない判断の揺れ” を明らかにしてきた分野であり、人が数字よりも「安心」「不安」「好き」「怖い」といった感情で意思決定を行うことを示してきた。今回は、行動経済学を広報企画書の構成や文章設計に応用する方法を整理したい。広報実務で直接活用できる再現性のある4つの理論(プロスペクト理論、ピーク・エンドの法則、感情ヒューリスティック、文脈効果)を用いて、企画書を「予定の説明」から「感情の設計図」へと書き換えるための視点を考えていく。
視点1
ロジカルさよりも“感じ方”
なぜロジカルな企画書ほど通らないのか
SNSや動画、検索、オウンドメディアが入り乱れる今、広報の成果を決めるのは “どう伝えるか” ではなく、“伝える前に何をどう設計するか” である。広報企画書は、誰に・どの順に・どんな感情の変化をたどってもらうかを描くための設計図であり、この流れが整って初めて広報施策は機能する。行動経済学は、その“感じ方の設計” を支える基盤になる。
人は必ずしも合理的に意思決定を行わない。「不安を避けたい」「好ましい語り手を信じやすい」「最後の一言で印象が決まる」といった心理的なバイアス(傾き)を持つ。企画書構想の際に行動経済学を踏まえることで、企画書が単に “伝わる” だけでなく “納得へ進む” 上での流れをつくることが可能となる。
広報の経験がまだ浅かった頃、私は「正しい企画は必ず通る」と信じていた。市場調査も数字も揃え、構成を整えても、会議では「理屈はわかる。でも、今やる気分ではない」と退けられる。ここで痛感したのは、意思決定は論理ではなく、最初に “感じ方” の影響を受けるという事実だった。この「気分」が、行動経済学でいう感情ヒューリスティックである。安心や不安、好悪の感情が判断の重み付けになり、時間がない、情報が多い、不確実性が高いほど直感的な判断が強まる。企画があと一歩及ばない理由は、感情の傾きが整理されていないためであることが多い。
広報実務では、語り手、順序、言い換えの3つがこの感情の傾きを大きく変える。誰が語るかで受け取り方は変わり、どの順番で触れられるかで抵抗の有無が変わり、どの言葉に置き換えるかで同じ内容でも “動ける/動けない” の差が出る。判断の主体が経営層でも社員でも生活者でも、この構造は共通している。実務で押さえたいのは次の3点である。
● 語り手を、狙いたい感情に合わせる(安心=CEO、誇り=社員、信頼=顧客)
● 最高地点と最後の印象を整え、体験の記憶に残る形にする(ピーク/エンド)
● 言い換えで「何を守りたいのか」を明確にする(プロスペクト理論)
企画書はロジックの精度を競う書類ではない。受け手の感情が “どの順に揺れるか” を設計することで、内容の理解が納得へと変わる。行動経済学は「人は理屈ではなく感じ方で動く」という前提から、実務に必要な操作の手がかりを与えてくれるだろう。前述の4つの理論の詳細は次の通りだ。
① プロスペクト理論:負担や改定を “守る理由” に置き換えて伝える。
② ピーク・エンドの法則:最も強い瞬間と最後の印象で体験の評価が決まる。
③ 感情ヒューリスティック:誰が語るかで受け止め方が変わる。
④ 文脈効果:並び方や比較軸だけで印象が変わる。
視点2
4つの理論を広報業務に応用
行動経済学の4理論を“広報企画の骨格” に
行動経済学では、「何を知ったか」ではなく「どう感じたか」が行動を左右するという前提から出発する。広報や商品PRの現場で、数字や事実がどれだけ揃っていても、受け手の最初の印象が動かなければ説明は入りにくい。特に負荷や変化を伴うような場面では、感情の重みが増し、判断のわずかな傾きが、そのまま結論を変えてしまう。
理論① 言い換える:プロスペクト理論
─“失わないための選択” に変換する
プロスペクト理論は、人が「得る喜び」より「失う痛み」に強く反応し、表現の違いだけで選好が変わるという考え方である。広報では、値上げや機能改定のように受け手に負担が生じる局面で特に効力を持つ。最初に確認すべきは「何を守るための更新か」という1点であり、安全、時間、信頼など、守る価値が定まると語彙が自然に揃う。
手順は①守る価値を名指しする、②守れなかった場合のリスクを1行で示す、③選択の意味を再定義する(例値上げ=更新)、④語彙を接点ごとに統一する(後述)の4つ。語彙は接点ごとに揃えることもポイントだ。リリース・LP・FAQで言い回しが揺れるだけで“守る理由” の印象が散り、抵抗が生じてしまう。
例えば、「製造コスト高騰のため値上げします」よりも「長く安心して使える品質を守るため、価格を更新します」のほうが抵抗は小さい。“守る理由” を冒頭に掲げるだけで読み手の負担が下がり、受容の余白が生まれる。
図1 プロスペクト理論
理論② 組み立てる:ピーク・エンドの法則
─“最高潮と終章” を先に決める
ピーク・エンドの法則は、体験が「最も強い瞬間」と「最後の印象」で評価されるという考え方である。広報施策でも、新製品発表やブランドムービーに限らず、値上げ説明、採用広報など、“何が記憶に残るか” が成果を左右する場面で特に強く働く。
まず、ピークとエンドを...


