アルゴリズム支配時代に広報が持つべき視点 SNS運用の前に考えるべきこととは

公開日:2026年6月30日

  • 桃井克典氏(プラップノード)

広報担当者にとってSNSは欠かせない接点である一方、「投稿しても届かない」「成果が見えにくい」といった悩みも深まっている。企業の情報流通やデジタルPRの支援に携わるプラップノードコンテンツマネージャーの桃井克典氏に、広報が持つべき視点を聞いた。

全体成果を観測する場

─近年、企業から寄せられるSNS広報やデジタルPRに関する相談内容はどのように変化していますか。

SNSが広報活動の一部として、以前よりも当たり前の存在になっていると感じます。そのため、企業からの相談自体も増えています。

ただし、相談の内容は変わってきました。以前は「公式アカウントをどう運用すればよいか」「投稿文をどう書けばよいか」「ハッシュタグをどう付ければよいか」といった、投稿そのものに関する相談が中心でした。

現在は、自社の投稿だけを見ていればよい状況ではありません。生活者は、企業の公式アカウントだけでなく、ニュース記事、メディアの記事、インフルエンサーの発信、一般ユーザーの投稿など、さまざまな経路から情報に接触しています。企業が発信した情報も、自社の投稿とは別の場所で共有され、語られ、拡散されていくようになりました。

そのため、「自社の情報がどのように共有されているのか」「どのように読まれ、見られ、受け止められているのか」を把握したいという相談が増えています。SNSは単なる発信の場ではなく、社会の中で自社がどう見られているかを可視化する場にもなっていると思います。

─企業の情報発信が「届きにくくなった」と言われる中で、マスメディアとSNSの関係はどう変化していますか。

マスメディアには、今もなお情報を短期間で全国的に広げる力があります。一方で、テレビを見ず、SNSを主な情報源にしている人も増えています。ターゲットによって情報接触のあり方が異なるため、マスメディアとSNSはどちらも重要です。

また、両者は別々に存在しているわけではありません。マスメディアで報じられた内容がSNSで共有されることもあれば、SNSで話題になったことがテレビや新聞などで取り上げられることもあります。情報流通の中で、相互に影響し合う関係になっています。

広報の視点から見ると、マスメディア掲載の意味合いも変わってきています。

以前は、メディアに掲載されることが大きなゴールでした。広報担当者としても「掲載が取れた」で一区切りだったと思います。しかし現在は、その後に生活者がどう反応したのかまで見えるようになりました。

広報にとって重要なのは、掲載実績を積み上げることだけではありません。その情報が社会の中でどのように流通し、どのような評価につながったのかまで見ていくことが、次の広報活動の改善につながるのだと思います。

掲載後まで見る必要がある一方で、これまで感覚的にしか分からなかった反応を定量的に把握できるようになったことは、広報活動を次に生かす上で大きな変化です。

─掲載獲得の先まで見ることは、広報活動にどのような意味を持つのでしょうか。

掲載後の反応を見ることで、広報施策の再現性を高められる可能性があります。

重要なのは、自社投稿の数字だけではなく、記事化された情報がどのように共有され、どのような反応を生んだのかを見ることです。そこまで見ていくことで、広報施策のサイクルに反映できるようになります。

SNSは、広報活動の結果が表れる場所でもあります。言い換えれば、広報活動の「結果発表の場」とも言えるでしょう。だからこそ、SNSだけに注力するのではなく、広報活動全体の成果を観測する場として捉えることが大切だと思います。

伝えるべき内容や姿勢は変えず

─Xなどではアルゴリズムの変化やオーガニックリーチの低下が指摘されています。広報はどう対応すべきでしょうか。

アルゴリズムの変化を把握することはもちろん必要です。ただ、広報担当者がアルゴリズムそのものを追い続けることが目的になってはいけないと思います。

広報にはSNS以外の役割も多く、アルゴリズム分析だけにリソースを割くことは現実的ではありません。だからこそ重要なのは、「どんな情報が反応を生んだのか」を見ることです。投稿の形式だけではなく、テーマや社会との接続性、生活者の関心との重なりなど、広報として分析すべきポイントは多くあります。

アルゴリズムの情報は有益ですが、それに合わせすぎると、広報本来の価値である「企業を語る」という軸までずれてしまうことがあります。

最近は、プラットフォーム上で目立つための表現やテクニックも多く見られます。しかし、それが自社のブランドや立場に合っているかは別の問題です。特にBtoB企業や専門性の高い企業の場合、流行の表現をそのまま取り入れることで、かえって違和感を持たれることもあります。

変化に対応することは大切です。ただし、対応することと、合わせにいくことは違います。伝えるべき内容や企業としての価値は変えずに、フォーマットや伝え方を柔軟に変えていく。そこが重要だと思います。

─SNSは広報戦略全体の中で、どのような役割を担うべきでしょうか。

認知獲得の段階では、広告やインフルエンサー活用、ターゲットが接触するメディアでの露出などが有効です。一方で、興味を持ってもらう段階では、オウンドメディアの役割が大きくなります。

SNSは、単独で完結するものではないと考えています。例えば、オウンドメディアで詳しい記事を公開し、その入り口としてSNSを活用するケースもあります。あるいはメディア掲載後に、記事では伝えきれなかった背景をSNSで補足することもあります。

SNS単体で完結するというよりも、さまざまな接点をつなぎ合わせながら、生活者との接触機会を増やしていく役割の方が大きいのではないでしょうか。

SNSだけで成果を出そうと考えるのではなく、広報活動全体の中でどのような役割を担わせるのかを考えることが重要だと思います。

─情報があふれる時代に、企業は「誰に届けるか」をどう考えるべきでしょうか。

以前よりも、「誰に届けるのか」を明確にする必要性が高まっています。

例えばインフルエンサー施策でも、フォロワー数が多い人を起用すればよいというわけではありません。自社に興味を持つ可能性のあるターゲットが、その人をフォローしているのか。その人が語ることで、ブランドやサービスの価値が高まるのか。そうした観点が重要になります。

認知の段階から、「これは自分に向けられた情報だ」と感じてもらうことが求められていると思います。

情報が多いからこそ、単に目立つだけではなく、「自分に関係がある」と思ってもらえることが大事です。ターゲットを絞るというと、届ける範囲を狭めるように聞こえるかもしれませんが、むしろ届くべき人にきちんと届くための設計だと思います。

─“中の人”運用や軽量コンテンツは、企業のSNS活用において有効なのでしょうか。

企業によって向き不向きがあります。親しみやすい発信によって認知が高まることもありますが、広報としては「どのような文脈で語られたいか」を忘れてはいけません。大切なのは、届けたい人に必要な情報を届けることです。

インプレッションを稼ぐこと自体が目的化してしまうと、本来の広報活動から外れてしまう可能性があります。何をKPIに置くのか、誰にどう受け止めてもらいたいのかを考える必要があります。

広報の目的別に見る、オウンド・ペイド・アーンドの全体像。

広報活動の質そのものを高める

─プラットフォームやアルゴリズムの変化に対応できる企業と、そうでない企業の差はどこにありますか。

自社が発信すべきことや社会に伝えるべき価値を変えずに、フォーマットや表現を適応させることが大切です。

伝えたい内容まで変えてしまうと、むしろ変化への対応を誤っている状態だと思います。SNSをきっかけにレピュテーションリスクが生じる場合も、企業としての軸が見えなくなっていることが背景にあるのではないでしょうか。

─「とりあえずアカウントを動かしているが、成果が見えない」と悩む広報担当者は、何から見直すべきでしょうか。

まず、SNSで何を達成したいのかを見直すことだと思います。

フォロワー獲得なのか、採用なのか、メディア掲載後の反応把握なのか。目的によってSNSの設計は大きく変わります。

もうひとつ大事なのは、SNSで無理に話題をつくろうとしないことです。広報活動である以上、まずはニュース価値がある情報か、社会との接続性がある情報かを考える必要があります。プレスリリースや記者との接点づくりなど、広報活動の土台があって初めて、SNS上でも語られる可能性が生まれます。

SNSに注力する前に、「SNSで語られるだけの情報を発信できているか」を考えるべきです。

SNS上で話題になる情報は、必ずしもSNS運用だけで生まれるわけではありません。ニュース価値のある発表があるか、社会との接続性があるか、メディアが取り上げたくなるテーマになっているか。そうした広報活動全体の積み重ねがあって初めて、SNS上で反応が生まれます。

その意味で、SNSだけを改善しても限界があります。広報活動そのものの質を高めることが、結果としてSNSで語られることにつながるのだと思います。反応が得られない場合、SNS運用だけの問題ではなく、そもそも発信している情報や企画の設計を見直す必要があるかもしれません。

─社員の視点から見た場合、企業SNSの発信はどう設計すべきでしょうか。

社内の視点も重要です。社員が見たときに「うちの会社らしい」と感じられるか。違和感を持たれないか。最近は、採用候補者だけでなく社員自身も企業のSNSを見ています。外向けには魅力的に見えても、社内から見ると実態とかけ離れている発信になってしまうと、かえって信頼を損なうことがあります。

SNS運用は外部とのコミュニケーションであると同時に、企業が自分たちをどう表現するかという行為でもあります。だからこそ、社内外の認識が大きくずれないことも重要だと思います。

SNSで何のために発信しているのかを社内にも共有できているか。そこも広報活動としては欠かせません。

アルゴリズムやプラットフォームは、これからも変わり続けます。しかし、企業として何を伝えるべきか、社会にとって価値のある情報とは何かを考えることは変わりません。SNS運用の前に、広報としての目的と軸を見直すこと。それが、アルゴリズム支配時代に広報が見失ってはいけない視点だと思います。

インタビュー
桃井克典
プラップノード
コンテンツマネージャー

もものい・かつのり2013年プラップジャパン入社。デジタルコミュニケーション領域などを中心に企業・自治体の広報を支援。現在はプラップノードでPRオートメーションによる広報DXや生成AI活用の情報発信などを担当。

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