「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
伝わらないのは技術が弱いからではない
BtoB企業の広報担当者から、「技術力はあるのにニュースにならない」「研究開発部門はすごいことをしているのに、社外に説明しにくい」といった悩みを聞くことがある。これは技術が弱いわけではない。高度で専門性が高いからこそ、誰にとっての価値なのかが見えにくくなる。技術広報は、難しい技術を分かりやすく説明するだけの仕事ではない。技術の特徴を顧客の課題に接続し、顧客の課題を事業機会に接続し、事業機会を経営の判断材料へ変える仕事である。今回は、BtoB企業の技術広報を単なる技術紹介で終わらせず、顧客、事業、経営を動かす広報企画書について考えていきたい。
視点1
課題の再定義
「経営価値を接続する広報」へ
技術広報の企画書でありがちな失敗は、技術の特徴から書き始めてしまうことである。
● 高性能である
● 高精度である
● 省エネである
● 小型化できる
● 耐久性が高い
● 独自技術である
たしかに、これらは大切なのではあるが、企画書の冒頭に技術の特徴だけを並べても、受け手はなかなか動いてくれない。受け手が知りたいのは、「この技術がどれほどすごいか」だけではない。「この技術が、自分たちの意思決定にどのような意味を持つのか」なのである。
例えば、ある技術が「高精度」であるとする。技術者にとっては、その精度を実現する仕組みや測定条件、競合との差分が欠かせない。一方、顧客にとっては、不良率が下がるのか、検査工程が短縮されるのか、品質保証の負担が軽くなるのかに関心が高い。経営層にとっては、それが収益性、競争優位、顧客開拓、将来の事業機会にどうつながっていくのかに注目するであろう。
同じ「高精度」という言葉でも、受け手によって判断材料は変わる。私はこれを「言葉の準拠枠」と呼んでいる。ここを整理しないまま企画書を書くと、技術説明としては正しくても、広報企画としては説得力は弱くなる。
技術広報でよく見られるもう一つの課題は、ターゲット設定を属性で終わらせてしまうことである。「製造業向け」「自動車業界向け」「自治体向け」「研究機関向け」。こうした整理は間違いではない。しかし、これだけでは相手の関心は見えない。
大切なのは、「どの属性に届けるか」だけではない。「どの状況にある相手に届けるか」である。例えば、新規事業の種を探している。既存製品の付加価値を高めたい。環境対応の説明材料が必要である。共同研究先を探している。技術選定の候補を比較している。投資家や取引先に、自社の技術の将来性を説明したい。このように相手の状況を捉えることに注力することで、企画書の書き方は大きく変わってくる。単に「当社の技術を紹介する」のではなく、「相手のどの判断場面に、この技術を接続するのか」を考えられるようになる。
ここで見落としてはいけないのは、技術の意味が伝わっていない相手は、社外だけではないという点である。社内の経営層にも、技術の意味が実は十分に伝わっていないことはよくある。従って、技術広報の企画書では、最初に技術スペックを説明するのではなく、その技術が解決できる経営課題を明らかにする必要がある。
●「高性能です」ではなく、「顧客の生産性向上に寄与します」
●「省エネです」ではなく、「環境対応と運用コスト削減の両立に貢献します」
●「独自技術です」ではなく、「競合では解きにくい課題に対する選択肢を提示します」
●「展示会で紹介します」ではなく、「共創候補との接点を生み、次の技術面談につなげます」
この変換ができて初めて、技術広報は「紹介」から「接続」へ変わる。技術広報の課題は、説明不足ではない。意味付け不足なのである。
コラム
技術者に「分かりやすくしてください」
と言ってはいけない
技術広報の打ち合わせで、広報担当者がつい言ってしまう言葉がある。「もう少し分かりやすくしてください」だ。言いたいことは分かる。専門用語が並び、社外の人には伝わりにくい。だから、もっと平易な言葉にしたい。広報担当者としては当然の感覚である。
しかし、技術者の側から見ると、この一言は意外に危うい。技術者は、難しい言葉を使いたいから専門的に話しているわけではない。多くの場合、正確に伝えようとしているからだ。前提条件を省くと誤解される。測定条件を書かなければ性能を言い切れない。用途を広げすぎると、まだ実証していない領域まで約束したように思われてしまう。
必要なのは、技術者の言葉を削ることではなく、「誰に向けて」「どの判断のために」「どこまで正確に」言えばよいのかを一緒に整理することである。広報担当者が技術者に言うべきことは、「分かりやすくしてください」ではない。
「この技術を、顧客の課題として言い換えるとどうなりますか」「ここまでは言い切れて、ここからは可能性として語る、という線引きはどこですか」「顧客からの不安は、技術的にはどう説明できますか」
こう聞くと、技術者は “敵” ではなく、“翻訳の共同編集者”となる。技術広報は、技術を薄める仕事ではなく、技術の正確さを守りながらも、届く相手を増やしていく仕事である。
視点2
認識変化の設計
技術広報は「認知➡理解➡信頼➡選定」で考える
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