値上げ・価格改定を顧客に納得してもらう広報企画書を書きたい!

公開日:2025年10月03日

  • 片岡英彦(東京片岡英彦事務所 )

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

値上げ告知を“関係性の再構築”へ

今、値上げを「どう説明するか」が問われている。価格を上げるのは経営判断であるが、それを「納得してもらえる」かどうかは、広報の問題である。企業物価指数の上昇、為替変動、人件費の高騰といった要因が重なり、「値上げは避けられない」という現場の声は珍しくない。一方で、値上げ発表の直後にSNS上では「なぜ今?」「企業努力はしたのか?」といった声が上がる。説明が不十分だと判断されれば、すぐに批判の対象となる。原材料費の高騰が事実であっても、それが生活者の「納得」につながるとは限らない。どのような広報なら単なる“値上げの告知”から“関係性の再構築”へと発展させることができるのか。「信頼される説明」のための、広報企画書のつくり方を考えたい。

視点1
なぜ今「値上げ広報」の企画書が必要か

広報の関与が望ましい理由

「価格」は、本来はマーケティングや営業部門の所管である。しかし、インフレ時代の価格改定は、単なるマーケティング戦略ではなく、企業のレピュテーションにも直結する、顧客との「信頼構築」の一環となっている。

ある大手飲食チェーンでは、価格改定後にSNS上で「一方的な通知」「説明がない」「以前と分量が違う」といった投稿が拡散され、ニュース番組でも取り上げられる騒動にまで発展した。その企業は直後に再説明のリリースを出すことになったが、大半は「広報ではなく法務が書いたもの」だったという。これでは、本来の意図が伝わらないだけでなく、“余計に怒らせてしまう”リスクを抱えていたことになる。

広報が値上げに関与したほうが望ましい理由は、大きく以下の3つの理由からである。

1つめは、「価格改定による顧客離れは、単に金額の問題ではなく“感情”が原因になる」ことが多いからだ。企業側が100円の値上げを「最小限の転嫁」といくら説明しても、生活者にとっては「急に裏切られた」「前触れがなかった」という印象が残ってしまうと、それが不満の素となる。納得感の本質は、金額そのものではない。「どのように伝えられたか」によって決まるのだ。

2つめは、「改定の理由がどれだけ正当でも、それが理解されなければ逆効果になる」点にある。原価高騰や円安などの正当な理由を企業が提示しても、それが「自分ごと」として納得されるには、情報の出し方や伝え方、タイミングが重要になる。特にBtoC商材においては、商品そのものに感情移入している顧客も多い。「納得できない値上げ」は企業自体の信頼性の低下に直結する。

3つめは、「価格改定はブランド信頼の有無が試される瞬間でもある」ことだ。価格改定のタイミングで、顧客は初めてその企業が「自分たちをどう扱っているか」を強く意識することになる。これまで好意的だった顧客が、値上げをきっかけに離反するケースもあれば、「正直に説明してくれたから信頼できる」と逆に評価され、さらに熱心なファンになる場合もある。つまり、値上げは“信頼を落とす危機”であるのと同時に、“信頼を可視化できる機会”でもある。

だからこそ、価格改定の説明にあたっては、単なる社告やプレスリリースではなく、「生活者との関係をどう再構築するか」を出発点にした企画を設計すべきである。単に情報を告げるのではなく、どの順番で・誰の言葉で・どのような構造で伝えるかを明示すること。それが、広報企画書が担うべき役割だ。

コラム
「値上げの説明」で反感を買う広報文、3つの共通点

値上げを伝える際に、広報文の文言が“逆効果”になってしまうケースは少なくない。特に生活者との関係が密な業種では、「書き方」ひとつで、納得されるか、炎上するかが分かれる。私自身の実務経験から反感を呼びやすい広報文には、主に3つの共通パターンがあると考えている。

第1は、「言い訳型」。

原材料費や物流コストの上昇、為替の影響など、数値を並べて “仕方なさ” を強調する文面だ。事実としては正しくとも、読む側には「自分たちのことは二の次なのか」という印象を与えやすい。「数字を示せば納得する」は、広報の幻想である。

第2は、「上から目線型」。

「ご理解を賜りますようお願い申し上げます」など、かしこまりすぎた定型文は、逆に距離を感じさせてしまう。「値上げしてやる」という態度に見えてしまうのは、語り手の姿勢が設計されていないからだ。必要なのは、対等な立場で“フラット”に語る点にある。

第3は、「既読スルー型」。

リリースやSNSでの告知だけで終え、問い合わせや苦情へのリアクションがない、あるいは事務的な“テンプレ対応”に終始するパターン。情報発信を“終了点”にせず、説明や対話が“継続する構造”を設計しておかないと、信頼はじわじわと損なわれていく。

広報文は「表現」ではなく「設計」である。生活者が納得できるのは、“背景にある関係性”が見える文章なのだ。値上げ広報の本質は、言葉づかいではなく、語りかける企業の姿勢(構造)の設計にある。過去に、価格改定の告知文で「誠に不本意ながら」という定型表現を入れたことで、「それならなぜやるのか」と逆に責められた経験がある。言葉は正しくても、構造が設計されていなければ逆効果になるのだ。

視点2
価格改定は “関係性の再構築”

「大事にされていない」ことへの不満

価格は、数字ではなく関係の表現である。多くの企業が、値上げの際にまず行うのは「金額幅」の提示だ。〇〇円の値上げ、〇%の改定というように、数値とともに理由を説明し、「企業努力の限界」を示す。これは事実として必要な情報ではあるが、それだけで顧客の理解や納得を得るのは難しい。これは、生活者にとって価格とは、単なる数字ではないからである。価格は「この企業が自分をどう扱っているか」を反映する“態度のシグナル”として受け取られている。だからこそ、金額そのものよりも、「どのように伝えられたか」「事前に話があったか」「自分にとって不利益ではないか」という“接し方”のほうが強く印象に残る。

例えば、ある家庭用日用品メーカーが数年ぶりに価格改定を実施した際、購買層である30代主婦層の一部から「裏切られたような気持ちになった」という反応があった。価格改定そのものは原価や物流費の上昇に基づいた正当な判断であり、他社と比較しても良心的な水準だった。にもかかわらず、そうした感情的な反発が起きたのは、「急に値上がりした」「何も説明がなかった」といった、伝え方への不満が大きかったことによる。

こうした不満の声は、「商品」ではなく「関係性」に対するリアクションでもある。生活者は「値上げしたから怒っている」のではない。「自分は大事にされていない」と感じたことに反応しているのだ。価格改定を“情報”としてではなく、“関係性の再構築”として設計する必要があると私が主張するのは、こうした点からである。重要なのは、新しい「関係性」をどう認識し、どう再定義するかという視座である。

広報企画書に求められる情報設計...

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