生成AIの活用が広がり、広報の情報収集・整理でも効率化が進んでいる。一方で問われるのが、判断の根拠となる情報の信頼性だ。電通コーポレートワンの広報実務と、新聞情報を提供してきたELNETの取り組みから、AI時代の情報活用を考える。
エレクトロニック・ライブラリー 執行役員 大村弘一氏(写真左)、電通コーポレートワン ブランディングオフィス 広報室 広報部 ディレクター 韮山由理氏(写真右)
電通コーポレートワンのブランディングオフィスで、dentsu Japan(国内電通グループ約140社)および電通のブランディング施策と広報業務を担当する韮山由理氏。メディア対応やニュースリリースなどの情報発信に加え、年間150本以上にのぼるニュースリリースの企画や監修も手掛ける。あわせて、広報領域の生成AI活用にも携わっている。
幅広い事業領域を持つdentsu Japanのコーポレート広報にとって、日々の情報収集は欠かせない。新聞、テレビ、ウェブなどを通じ、自社だけでなく競合や業界を取り巻く動きを把握する。事実確認を十分に経ている報道情報は、経営層への情報共有やメディア対応にも活用しているという。「経営層に届ける情報なので、新聞等によるファクトの信頼性と迅速性は常に意識しています」と韮山氏は話す。
毎朝8時台には、当日の朝刊を含む新聞や雑誌、ウェブニュースなどから、電通グループや広告業界、競合他社に関する記事を収集する。広報担当者はそこから情報を精査し、その日に経営層へ伝えるべき報道を選び出す。重要なのは、その情報が自社や事業にどのような意味を持つかの判断だ。
一方、ELNETは約40年にわたり、新聞社・通信社との契約に基づき、企業や官公庁に新聞情報を提供してきた。執行役員で「ELNET AI」のプロジェクトオーナーを務める大村弘一氏は、「長年培ってきた新聞情報の収集・提供の仕組みを生かしながら、よりお客様の業務に役立つ形へサービスを広げていきたいと考えてきました」と話す。
「読む時間」が考える時間を圧迫
電通コーポレートワンでの課題のひとつが、朝の限られた時間の中で記事を確認し、必要な情報を整理することだ。とりわけ、リスク事案などが発生した際には多くのメディア報道の中から、重要な情報を見極め、要約・分析して経営層向けのレポートとしてまとめなければならない。情報量が増えるほど、確認や整理に時間を要するが、「情報を確認することに時間を割けば割くほど、何を経営に伝えるべきなのかを考える時間が削られていく。そのジレンマがあります」と韮山氏は話す。
加えて、情報の重要度をどう判断するかは、担当者の経験や知識に左右されやすい。担当者がまとめた内容は上長の確認を経て経営層へ届けられるが、担当者によって判断の質に差が生まれれば、経営へ届ける情報にもばらつきが出る可能性がある。そのため同社では、誰が担当しても一定の品質で情報を判断できる状態を目指している。
ELNETが企業との意見交換やヒアリングを重ねる中でも、毎朝の限られた時間の中で、記事の確認や情報整理、分析、レポート作成までを担う広報担当者の負荷が見えてきた。この点、大村氏は、「お客様のお話を伺う中で、集めた情報をさらに整理し、分析しやすい形にできないかと考えるようになりました」と話す。
そこでELNETが着目したのが生成AIだった。従来のキーワード検索は、設定した条件に沿って細かな情報まで網羅的に拾える強みを持つ。一方、生成AIは、集めた情報を整理したり、複数の記事を比較したりする作業を得意とする。「キーワード検索が持つ網羅性を生かしながら、その結果をAIで整理・分析する。双方の強みを組み合わせることで、より広報実務に合った使い方ができます」(大村氏)。
AI時代こそ問われる「信頼性」
もっとも、AIで情報整理が速くなっても、それだけで広報業務が完結するわけではない。韮山氏が重視するのは、AIが示した内容の根拠を確認できることだ。生成AIで要約された情報でも、その内容が本当に正しいのかは人が確認する必要がある。「経営層に誤った情報を上げてしまう怖さがあります。だからこそ、何を根拠とした回答なのかを確認し、元の記事へすぐに戻れることは重要です」と韮山氏。
広報では、複数媒体の論調や着眼点を比較することも重要だ。自社と競合の報じられ方や社会の受け止めを把握することでその後の情報発信や記者対応などの場面で創意工夫が可能になる。
こうした情報活用を支える上で、大村氏が何より重視しているのが、情報そのものを安心して利用できる環境だ。
ELNETでは、新聞社・通信社と記事利用について契約を結び、それぞれの権利処理のルールに沿って情報を提供している。「著作権を遵守し、安心して提供できる記事であることが出発点です。その上にAIの機能があります」と大村氏は強調する。
生成AIの活用が広がるほど、アウトプットの根拠を確認することの重要性は増していく。「生成された結果が100%正しいとは言えません。だからこそ、元の記事まで戻ってファクトチェックしていただきたいと考えています」(大村氏)。
電通コーポレートワンでも、AI活用はすでに文章作成や情報整理など広報のさまざまな領域に広がっている。
例えば、ニュースリリースでは、長年その作成・監修に携わってきた広報室長・河南周作氏の知見を取り入れたリリース初稿作成用のAIエージェント「河南2号」を内製することで、情報整理や初稿作成の効率化・高度化を図っている。人が判断や推敲に、より多くの時間を充てることができる環境づくりでもある。韮山氏は、「AIによる効率化では、すでに多くの成功事例が生まれています。その次のステップとして、人が何をやるべきなのかを考えていきたいです」と話す。
情報収集や整理に費やしていた時間を、経営に資する広報活動や、記者とのコミュニケーションに振り向けていく。AIを人の判断に取って代わるものではなく、人が本来注力すべき業務に時間を使うための存在として活用するのだ。大村氏も「広報の皆さんが、本来注力すべき仕事に時間を振り向けるためのパートナーになれればと考えています」と話す。
こうした情報収集・整理の課題解決のため、ELNETは2026年10月、新聞クリッピングサービスのオプションとして「ELNET AI」の提供を開始した。毎日のクリッピング結果を生成AIで整理・分析しながら、根拠となる新聞記事を確認できる環境を通じ、広報担当者の情報活用を支援する。
ELNET AI 10月サービス開始!
ELNET AIは、毎朝届く新聞クリッピング結果を生成AIで素早く整理・分析できるオプションサービス。全国紙を含む50紙以上の新聞が対象で、生成結果の根拠となる出典記事も同一画面で確認可能。著作権者の許諾を得た新聞情報を活用し、入力情報はAIモデルの学習に利用されないため、情報整理から分析まで安心して活用できる。
AIの回答と、その根拠となった新聞記事を同一画面で確認できる。
※日刊工業新聞 2026年7月31日付(掲載許諾済み)
- 対話型AIで、全国紙を含む新聞の記事情報から回答を生成
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