うなずいてもらうことと、動いてもらうこと。その間にある隔たりを埋めるのは、立派な理念を掲げることでも、万人に向けて発信することでもない。求聴者が最初に触れるのは、その企業ならではの“体験”だ。「共鳴経済」の視点から、採用コミュニケーションの現在地を紐解く。
Point
1.「共感」は同意にとどまる。「共鳴」には行動が伴う
2. 歴史と理念は唯一無二の土台。年表ではなく、現場の事例として語る
3. AIが戦略を均一化させるからこそ、自社にしかない体験と物語が差別化になる
私が提唱している「共鳴経済」は、従業員を真ん中に置き、その従私業員が求職者、組織、顧客と共鳴でつながっていく状態を指すモデルです。極めて経営的な視点の概念ですが、採用はその入口にあたると位置づけています。
「共感」と「共鳴」は、日常ではほとんど区別されずに使われています。ただ辞書的な意味をたどると、両者は明確に違う。共感は、相手が言ったことに対して「ああ、そうだよね」と深くうなずく、同意がある状態です。一方の共鳴には、行動が伴います。深く響いて、自分がどうするかというところまでのニュアンスが含まれている。
この違いに気づいたのは、これまで自分がやってきたことを整理していた時でした。私は長く「理念共感採用」という言い方をしてきましたが、あるとき「待てよ」と思ったんです。採用というのは、候補者が自分でその会社に応募して、選考を受けに行って、内定をもらって、そこに行くかどうかも自分で決める。応募も選考も入社も、すべて本人が行動を起こしている。つまり採用は、そもそもの構造からして共鳴だったんですね。
もともと私が採用ブランディングという手法を体系化したのは、無名の中小企業がどうやって大手企業と戦うかという現場の課題からでした。多くの人が大手に行きたいと考える中で、わざわざ中小企業に応募し、自分の意志でそこを選ぶ。これは共感ではなく共鳴です。だから強かったのだと、後から腑に落ちました。
なお、共鳴という概念自体は新しいものではありません。ブランド論の中でケラーが示した「レゾナンス」、すなわち顧客がブランドに深く関与している状態を指す概念があります。私はそれを、顧客との関係性から採用や組織へと拡張した形になります。
歴史と理念を現場の事例に
当社の調査では、共鳴を生む要素として理念、歴史、デザイン、品質、体験価値の5つを挙げています。このうち採用コミュニケーションの出発点になるのは、歴史と理念です。
そう言うと、「そんなところで候補者は響くのか」と不安になる方が多い。従来の採用マーケティング的な発想からすると、遠回りに見えるからです。しかし歴史と理念は唯一無二のものです...


