投資家に誤解されない説得力と工夫のある広報企画書を書きたい!

公開日:2026年3月05日

  • 片岡英彦(東京片岡英彦事務所 )

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

数字の整理だけでは相手に届かない

決算数値が好調なのに、投資家の反応が鈍い。そんな経験がある。これは数字そのものよりも、その背景や打ち手の優先順位が伝わっていないことが原因だった。投資家が知りたいのは数字の増減より、その背景にある前提や判断の理由であり、企業がどこへ向かうのかという見立てである。こうした時に役立つ考え方の軸として、投資家心理、非財務ストーリー、開示デザインの3つがある。期待と不安の構図をつかみ、情報を読み手の流れに合わせて並べ直すことで、誤解の生まれにくい企業価値の伝え方ができる。経営企画やIRと連携しながら、広報部門が企業価値をどのように整理して伝えればよいのか。

視点1
投資家は何を知りたい?

決算では埋まらない「期待と不安」

投資家は数字そのものではなく、数字をどう受け止め、どのような未来を想像するかを手がかりに投資判断をする。決算資料にある売上や利益よりも、企業が「何を狙い、どのように進もうとしているのか」という方向性のほうが重視されやすい。

期待には4つのタイプがあると私は考えている。

❶ 成長期待(市場機会をつかめるか)
❷ 効率性期待(判断の筋が通っているか)
❸ 持続性期待(長く競争力を保てるか)
❹ 信頼期待(透明性と説明責任を果たしているか)

一方、不安にも以下の4つのタイプがあるだろう。

① リスク管理への不安
② 戦略の一貫性に対する不安
③ 財務面への不安
④ 事業内容が分かりづらいことによる不安

実際の説明会や個別取材では、こうした不安が1つずつではなく、いくつか重なった形で質問として現れることが多い。どの不安が一番強く出ているのかをあらかじめ言葉にしておくと、どこから説明を厚くすべきかが判断しやすくなる。例えば「今期の利益水準は大丈夫か?」という問いの裏側には、戦略の一貫性やリスク管理への不安が同時に含まれていることもある。表面の質問だけでなく、その背景にある不安の種類を切り分けておくと、答え方の精度が上がる。

この整理に使えるのが「投資家心理マップ」(図1)。期待4種・不安4種を軸に、自社の状況を並べることで、投資家がどこで誤解しやすいか、どの不安が強く出るかを可視化できる。広報部門の役割は、期待と不安のどちらに働きかけるべきかを見極め、情報の整理や説明の順番を工夫することだ。どの情報を先に示し、どの深さまで踏み込んで説明を試みるかによって、相手の受け止め方は大きく変わるため、投資家が理解しやすい組み立てに整えることが重要になる。

投資家は限られた時間の中で企業を理解しようとする。それゆえ「どこで誤解が生まれやすいか」をしっかり把握しておくことが後になって役に立つ。特に事業が複数ある企業では全体像がつかみにくく、不安が先に立ちやすい。弱点を先に説明するなど、とにかく「話す順番」を入念に工夫することを、私は常に勧めることにしている。

だからこそ、企画書をつくる際は、最初に “投資家心理マップ” を用意することが有効だ。ステークホルダー分析を応用したもので、投資家が限られた時間と注意力の中で何を優先し、どこで誤解しやすいのかを整理できる。これがあると、経営資料のメッセージをどこから、どの深さで伝えるかを組み直しやすくなる。

事業が多層的で投資家が全体像をつかみにくい企業ほど、心理マップの効果は出やすい。理解を阻むポイントや不安の源が明確になるからだ。弱点を先に説明して「隠していない」という印象を与えることも有効で、同じ数字でも受け止められ方は大きく変わる。心理マップは一度つくって終わりではない。四半期ごとに更新しながら「いま投資家の関心がどこに移っているか」を確認するチェックシートとして使い続けたい。経営会議やIR・広報の定例ミーティングで共有しておくだけでも、社内の視点が揃いやすくなる。

図1 投資家心理マップ

ここがPoint!
心理マップ作成手順

● 期待4種/不安4種を、まずA3用紙1枚で書き出してみる
●「どこで誤解が生まれているか」を1行で言語化する
● 弱点から先に説明するかどうかは、このマップを見て決める

この “心理の地図” を踏まえて企画書を組み立てると、どこをしっかり説明すべきか、逆にどこは無理に触れなくてもよいのかが整理しやすくなる。

視点2
企業価値を“物語”として再構築

非財務ストーリーの6要素

財務情報が語れるのはあくまで過去についてである。しかし、投資家が知りたいのはこれからの姿。未来の話は決算書には載らないため、非財務情報を整理することで、自社がどのような未来をつくろうとしているのかを説明できる形にしてまとめる必要がある。これを支えるのが非財務ストーリーである。

ここで言う非財務ストーリーとは、サステナビリティレポートのようなESG活動の報告ではない。「企業が未来に向けてどのような価値を生み出そうとしているのか」を投資家の判断材料として再構成した物語である。パーパス、無形資産、戦略、市場機会、リスク、ロードマップといった要素を、投資家の期待と不安に応える形で整理する。これは単なる価値観のアピールではない。

投資家の期待4種・不安4種に対して、どのような情報を、どう組み立てれば応えられるのか。その答えが非財務ストーリーの6要素である。期待を裏付け、不安を軽減するための情報設計として機能させることが最も重要だ。

先の6要素の関係性を示したのが「価値創造モデル」(図2)である。パーパスを起点に無形資産や市場機会が戦略を支え、リスク管理を経て財務成果につながる一連の流れを1枚で可視化している。投資家心理(期待と不安)に対して、どの要素がどう応えるのか、全体を俯瞰できる構造になっている。

図2 価値創造モデル

価値創造ストーリー6要素

パーパス ➡ 無形資産 ➡ 優先戦略 ➡ 市場機会 ➡ サステナリスク ➡ ロードマップ

図3 投資家の心理

期待(成長・持続性) ➡ ストーリーの一貫性 ➡ 不安の軽減

非財務ストーリーの設計が、投資家の期待と不安をカバーする

①パーパス(信頼期待に効く)

ある製造業は自社の存在意義を社会課題とのつながりで説明し直そうと、事業変革の理由を投資家に伝わりやすい形にした。理念を掲げるだけでなく、なぜ変えるのかを外側の視点から説明すると理解が進む。

②自社の無形資産(持続性期待を補強)

ブランド、人材、技術、顧客基盤など、財務に表れないが持続性を左右する要素である。これらをひとつの価値創造プロセスとして図解し、長期の強みを未来の資産として示した精密機械メーカーがある。

③戦略の優先順位(効率...

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