かつては「暗い」「騒がしい」と敬遠されがちだった鉄道の高架下が、いま再評価されている。飲食店や保育施設、アートスペースなど多彩な用途を備え、街に開かれた交流拠点として活用が広がっている背景には、沿線価値の向上や地域課題の解決といった、まちづくりの視点があった。本稿では都市空間に詳しい東京情報堂代表取締役の中川寛子氏が、高架下活用の現在地と可能性を解説する。
かつては暗く、騒がしく、人通りも少ない――そんなネガティブな印象を持たれていた鉄道の高架下空間が今、大きく変わろうとしています。これまで駐車場や倉庫などモノを置く場所、ただ通過する場所だったところから、近年では飲食や物販、保育園、シェアオフィス、住宅、宿泊施設など多様な用途で再活用されるようになっているのです。
では一体なぜ、あえて高架下なのか。実際にどのような使われ方をしているのか、これからどうなっていくのかを見ていきたいと思います。
高架下を沿線価値向上に活用きっかけは駅型保育園?
高架下活用の背景には、人口減少に伴う乗降客数の減少に対する鉄道事業者の危機感があります。コロナ禍による急激な乗降客数の減少もそれに拍車をかけました。今後、人口減少の中で“選ばれる沿線”であり続けるには、何が必要なのか。鉄道の快適性や速達性といった基本性能はすでに大きく改善されており、そこだけでは差別化が難しくなっています。
そこで注目されたのが、高架下という低利用・未利用空間です。都市部の駅周辺はすでに開発が進んでおり、まとまった土地を確保することは困難ですが、高架下であれば駅近で、なおかつ鉄道会社が自ら活用できる貴重な自社の資産です。これを使わない手はありません。
単に収益を求めるならば、駐車場や駐輪場といった従来型の用途でも十分に成立します。初期投資もメンテナンスも少なく、“手間なく収益を得られる”手段です。それでも、各社があえて手間をかけ、商業や文化、子育て支援などに取り組むのは、目先の利益以上に、沿線の価値を長期的に高めることを重視しているからです。
高架下活用の象徴としては、2010年にジェイアール東日本都市開発が秋葉原から御徒町間で展開した「2k540 AKI-OKA ARTISA...

