生活者の価値観が多様化し、売り方の正解が見えにくくなっている今、マーケティングや販促活動において“現場での検証”が重視されつつある。ドン・キホーテなどを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)のリテールメディア事業子会社pHmediaは、そうした課題に対し「狼煙型マーケティング」というアプローチを提案している。売り場をテストの場とし、実購買データや顧客の声をもとに仮説を磨き、勝ちパターンを見つけ出すというものだ。企画段階の戦略と実売との間にある分断を埋め、商品開発から販促まで一気通貫で支援するこの新しい手法は、今後のマーケティング活動にどう活かせるのか。

ドン・キホーテ/ユニーを運営しているPPIHは2023年12月、リテールメディア事業を展開する会社「pHmedia」を設立。会員数1600万人以上を誇る「majicaアプリ」の活用や、店頭の棚を1つのメディアとして捉え、売り場と連動させたリテールメディアサービスなど、多様に展開してきた。
そんなpHmediaが新たに打ち出しているリテールメディアのキーワードが「狼煙型マーケティング」だ。PPIHが運営する小売店の売り場をテストマーケティングの場所として活用。商品の“勝ちパターン(狼煙)”をつくり、ドン・キホーテ以外の小売店へもその成功事例を波及させていくようなサービスだ。
商品戦略とマーケ・販促の分断を繋ぐ狼煙型マーケティング
pHmedia取締役 小林真美氏によると、狼煙型マーケティングを打ち出した背景にあるのは、現在のマーケティング・販促活動における課題だったと話す。具体的には、商品企画・戦略立案を担う『プレファネル』と、広告や販促・実売が行われる『フルファネル』の間で発生する戦略上の乖離だ。
「両者が分断されてしまうと、企画時の仮説や戦略が実際の売り場できちんと実行されなかったり、仮説の検証が十分に行われていないケースも多いと思います。そのままでは、戦略で設定したターゲットと、実際に商品を購入する人が一致しないまま、プロモーションが進んでしまうリスクもあるはずです。狼煙型マーケティングは、その分断を埋める役割を担います。ドン・キホーテの実際の売り場を使って新商品をテスト展開し、どんな人が買ったのか、どの販促物に反応があったのか、どんなパッケージや価格帯が選ばれたのかを検証します。その結果をファネルの上流へフィードバックするという流れです。これまでとは違い、売れる/売れないが最もシビアに表れる店頭で、“売り方が正しかったのか”を検証し、戦略まで見直すことができる全く新しいリテールメディアの活用方法であり、マーケティング手法です」(小林氏)。
結果はデータで全て戻す 購入者とのマッチング機会も
とはいえ、ドン・キホーテは全国に店舗が存在している。そんな中で本部と各店舗が連動して店舗企画を実施するのは難しくも思えそうだ。なぜ、pHmediaでは狼煙型マーケティングのようなモデルが実現可能になっているのか。
第一に、ドン・キホーテは「個店経営」に近い運営体制をとっており、店長の裁量が大きいことが関係している。企画に応じて柔軟に売り場や棚割りを変更できるのだという。そして、狼煙型マーケティングでテストに利用される売り場はレジ前の一等地。必ずと言ってよいほど、ショッパーの目に触れる場所で検証することが可能だ。
さらに、pHmediaではすべての出稿結果レポートとしてID-POSを基にした分析を提供しているのも特徴。特にテストマーケティングの場合は、過去どのような商品を買っていた人が購入しているのか、リピート購入してくれている人はどのような人なのか、など詳細な分析もセットになっている。
「加えて、実際の購入者に深掘りのデプス調査ができるサービスも提供しています。商品を手に取った理由や改善すべき点などを直接ヒアリングしてもらえる機会を提供しているのもpHmediaならではだと思います。新商品のテスト販売を行う際はメーカーが自社ECで実施して、その後に流通へというケースも多いと思いますが、pHmediaの狼煙型マーケティングでは流通の実際の買い場でテストが可能。そして、その後の購入者への直接ヒアリングには営業部やマーケティング部だけではなく、商品開発をしているR&D部署の担当者も出席している場合もあります。買い場で上げた狼煙の結果をマーケティングプロセス全体に行き渡らせることができるので、商品開発から販売・CRMまで一貫したマーケティングプロセスを実現したい場合には相性が良いと思います」(小林氏)。
図 狼煙型マーケティングの活用方法

ドンキで得た成功体験を他の流通でも横展開してほしい
狼煙型マーケティングの特長はそれだけではない。最大のポイントはドン・キホーテ店頭で発掘した勝ちパターンをドン・キホーテ内だけで囲い込みすることなく、他小売への横展開を推奨していることだ。他店でも通用するかを試してもらい、勝ちパターンがIMCとして成立するかを実際に確かめてもらっているという。
「メーカーの皆さんは製品を売るにあたって様々な仮説を立てているはずです。その仮説を検証する場がドン・キホーテの店頭ですが、メーカーの皆さんが製品を販売しているのはドン・キホーテだけではないですよね。だからこそ、ドン・キホーテで得た成果を他の流通でも試してみてほしいと思っています。PPIHとしても新しい売り方にチャレンジできるきっかけになりますし、成果が出ればpHmediaが目指す消費者、メーカー宣伝部・事業部、メーカー営業部、小売の四方良しのマーケティング・販促が実現できると思っています」(小林氏)。
実際に「タフグミ」で狼煙型マーケティングを活用したカバヤ食品は、「実施企画を起点に、ブランドコラボによるカテゴリー成長等のエビデンスが得られると、他社に対してもリテールに対してもアプローチを行いやすくなる」との評価のもと、採用を決めたのだという。
「カバヤ食品さんは、カテゴリー成長のための重要なファクトを『使用経験率』と『エントリーポイントの増加』と設定しました。それらを達成するための1つの切り口として『エナジードリンク』との親和性に着目。本当に親和性があるのか、成果がでるのかを社内外に拡大するためには、仮説ではなく、『定量化・実証』をしたいということでご活用いただきました。結果、実施前後を比較すると売上は77%のリフト。ブランドスイッチ、カテゴリー新規の顧客獲得ともに大きく貢献したことがわかりました。『タフグミ』だけではなく、エナジードリンクのトライアルユーザーの割合も50%を超え、成果を実証できた機会になりましたね」(小林氏)。
pHmediaが目指すのは、これまでのリテールメディアと違い“検証の場”としての売り場活用だと小林氏。“まずはドン・キホーテでやってみる”。テストを通じて“売れる兆し”をつかみ、それをコミュニケーション戦略や商品設計の見直しにつなげるためのスタート地点として、狼煙型マーケティングを活用してもらえたらと話した。

お問い合わせ
株式会社pHmedia
MAIL:info@phmedia.jp