カンヌライオンズ2026において、イノベーション部門の審査委員長を務めたのが志村和広さんだ。AIが当たり前になったこの時代に、イノベーションはどう再定義されるべきか。審査委員長として提示した方針と、12時間に及ぶ激論の末にたどり着いたクリエイティビティの未来像を聞いた。
「概念の実証」から「変化の証明」へ
イノベーション部門には、広告という枠を超え、プロダクト、サービス、プラットフォーム、社会システム、ビジネスモデルなど、クリエイティビティの可能性を拡張する多様な作品が集まります。応募主体はエージェンシーに限りません。いわばクリエイティビティの自由演技とも言える部門です。
イノベーションという軸は、自分の仕事としても重視してきたテーマです。今回カンヌから依頼を受け、この部門の審査委員長を務めるにあたり、改めてクリエイティブ産業におけるイノベーションの意味に、真正面から向き合おうと決めました。なぜなら2026年は「AIが当たり前になった時代」に突入した最初のイノベーション部門の審査だから。
イノベーション部門の審査は、ショートリストを決める4日間にわたる事前のオンライン審査を経て、カンヌ現地でのショートリストのライブプレゼンテーション、その後1日をかけて受賞作品を決めていくというプロセスです。審査委員長としての方針は、事前審査で10人の審査員皆の意見や視点をぶつけ合ったうえで、カンヌ現地で最終的なものを提示しました。
私の審査方針は、「Proof of Concept(概念の実証:PoC)から Proof of Change(変化の証明)へ」。「それは実現できるのか」をゴールではなく出発点とし、「現実に何を変えたのか、そして次に何を変え得るのか」を問う。AIによってアイデアを形にすることは以前よりはるかに容易になりましたが、実社会に意味のある変化を起こすことは、依然として難しい。だからこそそこに、私たちの産業のイノベーショ...


