東京コピーライターズクラブ(TCC)による、2025年度TCC賞の各賞が6月に発表となった。審査によせて「表現のおもしろさ」を掲げた今回、どのような視点で入賞作が選出されたのか。最終審査委員たちの講評から探ります。
2025年度TCC賞受賞者リスト
グランプリ
●栗田雅俊(電通)
●早坂尚樹(電通)
花王/メリット/ポスター、
TVCM「最終回は気づかないうちに終わっていく。家族と愛とメリット」
TCC賞
●麻生哲朗(TUGBOAT)
●小西慶(電通)
●辻健太郎(電通)
三井住友銀行/Olive/WebMovie他
「通帳の人」
●岡本欣也(オカキン)
●泉田岳(TOKYO)
ウエルシア薬局/
からだWelcia・くらしWelcia他/TVCM他
「誰も傷つけたくないスポンジ」
●岩田純平(電通)
花王/企業広告/ポスター他「その水は、
シャワーの先からポタポタ垂れるお湯として流れていった。
終制作・著作Kao」
●小川祐人(電通)
●小林桃子(電通)
キングジム/テプラ/WebMovie「職場の悩みに、テプラで挑め。#おねがいテプラ」
●多田琢(TUGBOAT)
芝浦機械/企業広告/TVCM「すごいヤツを作りだしたヤツを作りだしたヤツもすごいんだ」
●松田脩(電通東日本)
●冨田孝行(電通東日本)
栗山米菓/瀬戸しお/アドボード他
「『瀬戸しおマズイ』の検索結果はありません」
●三島邦彦(フリーランス)
Netflix/極悪女王/雑誌他「プロだから。」
●山崎隆明(ワトソン・クリック)
アイフル/知名度アップ/TVCM
「魚の命に申し訳ないわ。愛がいちばん。」
●北恭子(電通)
●小西慶(電通)
●三浦慎也(電通)
サントリー/ザ・プレミアム・モルツ/WebMovie
「飲みに誘うのムズすぎ問題」
●鳥巣智行(Better)
長崎新聞社/8.9平和企画/新聞広告
「3秒。あなたがこの文章を読み終えるころには、多くの命が消えている。」
●姉川伊織(電通)
●太田文也(電通)
●並木万依(電通)
KDDI/UQ親子応援割/WebMovie
「それは、思い出の量だから。」
●磯島拓矢(電通)
●今井政広(電通)
●諸橋秀明(電通)
●姉崎真歩(電通)
キリンビール/キリン一番搾り糖質ゼロ/TVCM
「じゃ、糖質飲んでる人がカッコいいんですか?」
●姉川伊織(電通)
●嶋崎仁美(電通)
●泉田岳(TOKYO)
Bot Express/スマホ市役所/WebMovie他
「“ありがとう”って言われてる同僚を見たいじゃん?」
審査委員長 栗田雅俊
今年、この審査の募集文が「TCC賞、作品募集」ではなく「コピー年鑑、作品募集」であったことに恥ずかしながら改めて気付きました。賞を決める目的で広告を集めているのではなく、一冊の年鑑をつくるために、未来に渡す価値のある言葉を残すために、みんなが集って頑張って汗をかいている。その営みに、今とても意味を感じました。
AIも進化し、広告の手法も多様化する中で、ただただピュアに言葉や映像の技術を確かめあう場って、ここへきて意外とけっこう大事かも、と。そういう機関って他にあんまりないし、と。今年、応募総数も久しぶりに増加したそうです。
応募作の感想としては、より現実に近づき広告的なものから離れようとする広告と、今あえて広告らしい職人技を信じる広告という、両端の流れを同時に感じ、そのどちらにも新鮮さを感じました。たぶんどっちも必要なんだなという気がしました。
すべての応募者の皆さま、審査にご協力いただいた皆さまに御礼申し上げます。
麻生哲朗
「商品とテーマとコピーの関係」に必然を感じるものが増えた気がした。それは「正しい関係」でつくられた証ではある。つまり上手だ。だが審査としては、読みながらそれを「解析」できてしまった瞬間、上手に書かれていても膝を打つ感覚になれずにいた。「このテーマならまぁこう書くだろう」そんな想定や想像の範疇を逸脱してくる仕事にやはり魅力や可能性を感じる。「このテーマなのにここを書くのか」という飛躍、「そもそもこれをテーマにしたのか」という大胆さ、どちらかを感じたいし感じたものに票を入れていたように思う(ちなみに両方逸脱したらおそらく広告にはならない)。
芝浦機械は、テーマそのものを語るセリフでつくられているが、そもそものテーマすなわちタグラインの剛腕っぷりが痛快だった。
有元沙矢香
最近の世の中は、誰が言うか、どんな風に言うかになぜかとても敏感だ。それ次第で揚げ足を取る人もいれば、一方で、大きな声で言わずとも、誰かの応援演説とともにものすごいスピードで広がってマスになり得るものがあったり。そんな中で、今年私が選んだコピーは、どれもその言葉を発する主人公に引かれた言葉だったと思う。言葉のディテール、デザイン、演出、全てが緻密にそのキャラクターをつくり上げていて、自然と話を聞きたくなっていた。
磯島拓矢
昨年同様、グランプリだけは何度投票しても変わらないでしょう。ブランドを新しくするのではなく、本来の価値を見つめ直し磨き上げる。その久しぶりの成功例だと思います。グランプリをはじめ、受賞作はどれも巧みなコピーワークなのですが、スパッとしたメッセージ型のコピーはなかったように思います。たぶんそれが、今の空気なんだろうなと思います。言葉は欲しい、エモーションも欲しい、でもメッセージはいらない。そんな気分。どう...
