映像制作関連の10社が集まるCHホールディングスでは近年、AI時代に適した制作体制の強化を進めている。2025年には、AIを活用した映像制作に特化した新会社「まんなか」を設立した。このほか映像制作のエルロイ、ライブエンタメ案件の映像制作を手がけるRECO、CHAMELEONの2社もAIを活用している。
(左から)エルロイ COO/ディレクター 土屋哲彦さん、同 エディター 萩原嘉人さん、まんなか 代表取締役/ディレクター 野村篤史さん、同 VFX+AI スーパーバイザー 兼子研人さん、RECO 代表取締役/プロデューサー 勝村紀昌さん、CHAMELEON コミュニケーションプロデューサー 石ヶ谷宜昭さん。
ディレクター主導のAI映像制作
CHホールディングスは映像やCG・VFX制作、Web、空間デザイン、xR・VR、撮影技術など多様な専門分野を持つ10社で構成されるホールディングカンパニーだ。あらゆる予算に対応する広告映像制作のほか、劇場公開映画やドラマなどのコンテンツ制作、音楽ライブなどエンターテインメント分野の演出の技術協力も幅広く手がけている。
「それぞれの専門分野に特化した企業間で連携しながら、グループならではのシナジーを発揮しています」と、グループのハブを担うCHホールディングスのCCOの高原成博さんは説明する。
新たな動きとして2025年10月、ディレクター主導でAIを活用した映像制作を行う会社「まんなか」を設立した。CMディレクターとして長く広告映像制作に携わってきた野村篤史さんが代表を務める。
「人間が考える企画や演出と、AIだからこそ可能な表現をどう組み合わせるかが重要です。ディレクターが企画・演出の軸をつくり、AIクリエイターやVFXスタッフと連携して、企画コンテやVコンから映像制作まで一貫して行っています。効率化だけでなく、制約で難しかった表現まで可能になることがAIの魅力です」と野村さん。海外の制作会社とも連携し、自ら現地を訪れて得た知見をグループにもたらしている。
ローカルAIで俳優の「顔」と、重要なデータを守る
さらに2026年6月には、VFX+AIスーパーバイザーの兼子研人さんも加わり、俳優やタレント、IPの権利や機密性に配慮した映像表現を提供する「Facial VFX Lab」に取り組んでいる。クラウド型の生成AIだけに依存せず、社内に構築したローカルAI環境とVFX技術を組み合わせるのが特徴だ。外部に出しにくい人物の顔などの機密性の高い素材も、管理された環境で扱える。
「たとえば映画で俳優の数十年前の姿を再現する場合、まず俳優の映像と画像を集めて社内のAIに学習させます。本編の映像をお預かりしたら必要な映像をAIで生成しますが、演技を活かすにはAIだけで完成できることは稀で、CGとVFXで肌の質感や輪郭、髪の印象などを調整し、古い映像は画質も補正して仕上げます。納品後は俳優のデータや機密情報を全て削除し、復元できないようにしています」(兼子さん)。
AIをVFXのワークフローに組み込むことで、数日かかっていた工程の一部を数時間に短縮できるケースも出てきたという。
この技術は広告にも活かされている。アルファロメオのイメージムービー(2026年5月公開)では、撮影した新車のグラフィック素材と東京の街並みを組み合わせる工程にAIを活用。野村さんと兼子さんが手がけたサイボウズの業務改善プラットフォーム「kintone」の北米向けプロモーション動画(2026年10月公開)では、業務効率に悩むオフィスに「kintone」と名乗る日本の忍者が現れるストーリーを、AIによる生成と従来の技術を組み合わせて制作した。AIだけに委ねず、ディレクターの演出とAI、VFXそれぞれの強みを組み合わせる。それが「まんなか」の基本的な考え方だ。
Stellantis ジャパン/アルファ ロメオ「Alfa Romeo Junior Ivory Color」(企画制作:ビーコンコミュニケーションズ+まんなか)。
サイボウズ/ kintone「kintone USver」。
AI利用のガイドライン策定へ
このほかグループ内での最近のAI活用例としては、エルロイの土屋哲彦さんが監督・脚本・編集を手がける劇場公開映画『記者の春休み』(約100分、2026年秋公開)がある。ストーリー自体もAI時代の情報の真偽やフェイクニュースによるネット炎上など現代的な問題を扱った作品だ。爆破シーンや、劇中に登場するフェイク動画などはエルロイのエディター、萩原嘉人さんがSeedanceなどの動画生成AIやVFXを駆使して短納期で制作した。
劇場公開映画『記者の春休み』。
一方、RECO 代表取締役/プロデューサー 勝村紀昌さん、CHAMELEON コミュニケーションプロデューサー 石ヶ谷宜昭さんが取り組むのは、ライブイベントなどエンターテインメント分野におけるAI活用だ。2社は共同で、アーティストのライブ・コンサートの曲間映像やパフォーマンスと連動するスクリーン映像などにAIを取り入れ、演出の幅を広げる仕組みや編集技術を多数提供している。
以上のようにグループ全体で、AIを使った新たな表現手段や仕組みづくりに注力している。なお、クラウドAIサービスの利用にあたっては、各ベンダーが提供するサービスのアップデート状況や精度などを兼子さんを中心に検証。グループ内でも知見を共有し、質を保ちながら予算やスケジュールなどに応じた映像制作を可能とする選択肢を提示できる体制が整いつつある。
加えてグループ全体で現在、取り組んでいるのが、制作時のAI活用のガイドラインの策定。弁護士らの監修のもと、間もなく完成版を公開予定だ。「明確にゴールが定まっているクライアントワークでAIを活用すること自体、難易度が高いですし“信頼”が何よりも重要。制作に関わる皆さんのこだわりに応えながら、クリエイターが安心してクオリティを高めていけるように、グループ全体で体制の強化に取り組んでいければと思います」(高原さん)。
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