デザインとは未来をつくるもの「EXPO 2025Design System」が示したこれからの社会モデル

公開日:2025年12月26日

  • 引地耕太

10月13日に閉幕した、大阪・関西万博。そのテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するために、“開かれたデザイン”を理念に掲げる独自のデザインシステムが構築された。多様な「いのち」が共生する生態系のように変化し続けるその仕組みは、会場を装飾・演出する「EXPO WORLDs」に姿を変えて、万博を盛り上げていった。デザインシステムの構築と「EXPO WORLDs」をリードしたクリエイティブディレクターの引地耕太さんに、制作過程と万博後に見据える未来について話を聞いた。

デザインシステムのコンセプト「いのちの循環」を体現したコンセプトビジュアル。「はじまりも終わりもない時と、いのちの流れ」を表現した。

“アプローチの仕方”を規定する「デザインポリシー」から考えた

「EXPO 2025 Design System」が策定されたのは、2022年4月。「万博のさまざまなインターフェースを統一し、アナログ・デジタルの境界線を超えて一貫した体験を提供すること」を目的としたもので、当時ワントゥーテンに所属していたクリエイティブディレクターの引地耕太さんが制作した。

「当時、デザインシステムを考えるにあたっての材料は非常に限られていました」と引地さん。全体テーマの「いのち輝く未来社会のデザイン」や、すでに公開されていたシマダタモツさんによるロゴマークなどをヒントに、「いのち」をどう解釈し、今の時代に合った形でシステム化すべきかを紐解いていった。制作期間の約半分を事前リサーチに割き、国家レベルのプロジェクトにおけるデザインの役割について理解を深めていったという。

引地さんが初期段階でまず定めたのは、5つのデザインポリシー(02)だった。これは、今回の万博におけるデザインアプローチを明文化したもの。ビジュアル的な“ルール”を設けるのではなく、言葉で“アプローチの仕方”を規定したのがユニークな点だ。

デザインシステムの考案にあたって、引地さんはまず5つのデザインポリシーを定めた。このポリシーが、後のデザインシステムそのものや「EXPO WORLDs」の制作過程においても軸となっていった。

「デザインポリシーを設定する。そのアイデアの原点にあったのは、1964年の東京五輪や1970年の大阪万博などで、デザイン評論家の勝見勝さんらが制定した、デザインポリシーでした。万博には個性豊かなクリエイターたちが参画します。個々の創造性を活かしつつも、全体としての一貫性を持たせるためには、ビジュアル的な制限を設けるのではなく、言葉で共通認識を持ってもらう必要があると感じたんです。前の世代へのリスペクトを込めて、今の僕らの時代に合った形で、デザインポリシーをアップデートすることにしました」(引地さん)。

今回引地さんが設定したデザインポリシーの根底にあるのは、人々の参加と共創を促す「開かれたデザイン」という考え方だ。「従来の国際的なイベントにおけるデザインは、当たり前のようにトップダウン型でなされてきました。一人のトップクリエイターが象徴的なビジュアルを生み、展開上のルールを定め、基本的にはそのルールに則ってさまざまな出面に実装していく、というアプローチです。しかし現代では、平面や映像、グッズなどのリアルな接点だけでなく、ARやVRも含むバーチャルな接点でも一貫性のある万博体験を提供する必要があります。さまざまなクリエイターとの共創を前提に、開かれた仕組みとなる可能性を持った、拡張性のあるシステムを設けることにしました」。

さらに考案当時のクリエイティブ業界の風潮も、こうしたアプローチを推進する後押しとなった。「その少し前に開催された東京2020五輪ではさまざまな課題が浮き彫りになり、クリエイティブ業界に対して閉塞感を抱いた方も少なくなかったと思います。そんな状況では、若いクリエイターは国家プロジェクトに参加したくなくなるのではないか。このタイミングで開催される万博ではその風潮を少しでも変えられたら……そんな懸念や責任を感じ、アプローチの設計時点で、さまざまな人が担い手として参加できる仕組みにしたいと考えたんです」(引地さん)。

「いのちの循環」に込めた意図

このように、まずポリシーを規定したうえで、実際のデザインシステムをどう考案するか。引地さんが行き着いたのは、「いのちの循環」というコンセプトだった。

「ここでの『いのち』とは、人間のそれに限りません。日本には太古から『八百万(やおよろず)の神』の思想があり、石ひとつ、葉っぱ1枚にもいのちが宿っているという考え方があります。自然はもちろん、現代においてはAIやロボットにもいのちが宿っていると考えを膨らますこともできるでしょう。いのちは人間だけでなく、自然やシステム(テクノロジー)など多様なものに宿っていると仮定しました」。

それが「循環」するとはどういうことか。「振り返れば、1970年の大阪万博のテーマは『人類の進歩と調和』で、人間を中心としたものでした。しかしそれから50年以上が経ち、社会や環境はさまざまに変化し、世界は人間中心では立ち行かなくなっています。そんな今の時代に必要なのは、時に分断されがちな人間・自然・システムというそれぞれのいのちが、生態系のように、時に繋がり時に離ればなれになり、循環しながら共に新たな未来を描いていくことではないかと考えたんです」。

その状態を示したのがコンセプトビジュアルだ。ここで表現されているのは、「はじまりも終わりもない時と、いのちの流れ...

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大阪・関西万博デザインシステム大解剖<拡大版>

「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、2025年に開催された大阪・関西万博。閉幕後の今もなお、その象徴的なキャラクター「ミャクミャク」を筆頭に、多くの人々に強い記憶を残しています。その熱狂を高めてきたのが、“開かれたデザイン”をコンセプトとした「EXPO 2025 Design System」の存在。そこから生まれた「こみゃく」の二次創作なども盛んに行われ、多様な人々の参加と共創を促す“生成的オープンデザインシステム”として世の中に広がっていきました。今号では、2025年8月号の本誌特集「デザインシステム大解剖」をさらに拡大。システムの中核を担った引地耕太さんと改めてその全貌を紐解きつつ、本万博にまつわるデザインやキャラクターなどの“ソフトレガシー”が、これからの世の中でどう活かされていくのか、多様な領域の専門家らとともにその可能性を掘り下げます。

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