「万博にはグランドデザインが必要だ」これからの公共プロジェクトとクリエイターの責任

公開日:2026年1月06日

    今回の大阪・関西万博でデザインシステムを手がけた引地耕太さん。その“師匠”であるクリエイティブディレクター、タナカノリユキさんは、万博をどのように捉えていたのか。「未来社会を描く以前に、本来構想されるべき『グランドデザイン』が欠けていたのではないか」--。万博を通じて浮かび上がった課題から、クリエイターが公共プロジェクトに関わる意味と責任を掘り下げる。

    そこに「グランドデザイン」はあったのか

    引地:久しぶりにお会いできて嬉しいです。前回は2人で飲んで、たしか8時間くらい語りましたよね(笑)。今日は今回の大阪・関西万博、そしてデザインシステムについて、改めてタナカさんの考えをうかがいたいと思っていて。そもそもタナカさんは、今回の万博には行っていないんですよね。

    タナカ:そうなんです。あえて見に行っていないんです。その理由がいくつかあって。万博というのはそもそも、開催地の都市開発やインフラ整備などと密接に結び付いているんですよね。万博をきっかけに、地方行政が国家事業として予算を引き出し、その土地を開発し、ブランド価値を上げるという構造です。今回の場合は、夢洲をどう開発するか、という話が根底にあります。結果的に夢洲の地にはIR(統合型リゾート)の開業が決まっており、それは私としてはちょっと疑問を抱いたりするわけです。

    ただ、私が一番問題だと感じているのは、万博を通じた都市開発・インフラ整備のグランドデザインができていない――つまり、全体構想にビジョンが欠けていることです。「いのち輝く未来社会のデザイン」は、万博のテーマですが、それが開発そのものと全く結び付いていない。テーマを掲げるのであれば、万博が終わった後の夢洲が、どうしたら本当にそのビジョンを体現した街になるか、構想がなされるべきでした。

    そして本来、クリエイティブディレクションは、そうした大元にあるグランドデザインにおいてこそ必要とされるべきです。ところが万博では、行政が決めた限られた“場所”や“箱”の中での表現だけをクリエイターに求める状況になりがちでした。

    私は常々、クリエイターは「頭」と「手」の両方が重要だと考えています。ただ手足のように表現の部分で課題に応えるだけでなく、未来を構想する「頭」の部分も重要だという意味です。今回の万博の在り方に対して、クリエイターとして、その構造的な問題から目を背けてはいけないのではないか――そう感じていました。

    引地:タナカさんのおっしゃることは、現場にいた人間としてよくわかります。僕はもちろんグランドデザインを決めるような立場にありませんでしたが、それでもこのプロジェクトが縦割りで進んでいく構造的な問題とは常に対峙していました。

    たとえば、僕がつくったデザインシステムと、公式のアプリケーションのデザインは、本来一貫した体験をつくるべきなのに、担当する組織が別で連携が難しい。デザインの一貫性をつくるための組織そのもののデザインや制度そのもののデザインの必要性を痛感しました。今回はそうしたデザインにおけるマスターシップが不在のまま、物事が進んでいったように思います。それは、タナカさんが指摘された、もっと大きなレベルでのグランドデザインの欠如という問題と地続きなのだと思います。

    「人」と「自然」の視点

    タナカ:1970年の大阪万博は、戦後復興と高度経済成長の象徴として、日本の国際的地位を向上させるものでした。そして、何より国民の満足度が非常に高いものでした。でもそれ以降、日本における万博の在り方がアップデートされていないのではないかと感...

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    大阪・関西万博デザインシステム大解剖<拡大版>

    「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、2025年に開催された大阪・関西万博。閉幕後の今もなお、その象徴的なキャラクター「ミャクミャク」を筆頭に、多くの人々に強い記憶を残しています。その熱狂を高めてきたのが、“開かれたデザイン”をコンセプトとした「EXPO 2025 Design System」の存在。そこから生まれた「こみゃく」の二次創作なども盛んに行われ、多様な人々の参加と共創を促す“生成的オープンデザインシステム”として世の中に広がっていきました。今号では、2025年8月号の本誌特集「デザインシステム大解剖」をさらに拡大。システムの中核を担った引地耕太さんと改めてその全貌を紐解きつつ、本万博にまつわるデザインやキャラクターなどの“ソフトレガシー”が、これからの世の中でどう活かされていくのか、多様な領域の専門家らとともにその可能性を掘り下げます。

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