長らく出版不況や活字離れが叫ばれるなかで、活字を軸にした新たなエンターテインメントが生まれています。今回集まってくれたのは、それぞれ異なるメディアで活躍する3人。辞書で見つけた言葉を肴にお酒を飲む『川島明の辞書で呑む』、10文字の言葉を縦型ショート動画化する『バカリズムの10文字ホラー』など、これまでにない切り口の番組を数々手がけるテレビ東京の株木亘さん。「小説を、心の栄養に。」をキャッチフレーズに、2024年11月に創刊、文芸誌としては異例となる累計15万部を超えるベストセラーとなった『GOAT』で編集長を務める、小学館の三橋薫さん。『呪術廻戦』のオープニング曲『廻廻奇譚』など数多くのリリックビデオをはじめ、タイトルロゴや番組ロゴなど、文字をメインに手がける「文字デザイナー」として活動するZUMAさん。活字の持つ力や、そこから生まれる体験、さらにAIとの戦いまで。デジタル時代に刺さるクリエイティブを考えます。



活字の力を「体験」に変える
株木:テレビ東京で番組の演出やプロデューサーをしています。番組開始から18年にわたって関わっている『モヤモヤさまぁ~ず2』のほか、最近では『川島明の辞書で呑む』『秋山ロケの地図』『バカリズムの10文字ホラー』といった、ちょっと変わった番組を担当しています。
三橋:昨年の秋に、小学館の文芸編集部の有志メンバーで『GOAT』という紙の文芸誌を創刊して、編集長を務めています。そのほかWeb文芸誌「STORY BOX」の編集長も兼務していて、『謎解きはディナーのあとで』『恋とか愛とかやさしさなら』といった単行本も担当しています。
ZUMA:『呪術廻戦』のオープニング曲『廻廻奇譚』などリリックビデオに使われる文字をはじめ、タイトルロゴや番組ロゴといった文字をメインにつくるデザイナーとして活動しています。
三橋:出版不況や活字離れと言われて久しいですが、実は私はこの2つの言葉が大嫌いなんです。文芸誌って数千部くらいが当たり前のなか、『GOAT』はありがたいことに15万部。それが励みになっている一方で、これまで私たちつくり手は面白いものを提供できていなかったんじゃないかって。
株木:番組を通して、僕も活字の力は感じていますね。『秋山ロケの地図』では、町の人が白地図に書き込んだ情報だけをもとに番組をつくっているのですが、その呼びかけもSNSではなく新聞の折込チラシ。また先日、『辞書で呑む』で5000人規模のイベントを開催したのですが、皆さん辞書を片手に参加してくれて。
ZUMA:私の文字デザイナーとしての原点は、中学生のときに初めて嵐のコンサートに行ったこと。舞台に大きなLEDがあって、そこに歌詞が流れているのがすごくかっこよくて。日本語って、いろいろな種類があるのも表現のしがいがあるというか。
三橋:『GOAT』という誌名は、紙が大好きな「ヤギ」と「Greatest Of All Time(史上最高の)」の頭文字から名付けました。文芸誌って、芥川賞などの純文学系とミステリーなどのエンタメ系に線引きされているケースがほとんどですが、私は面白いものってジャンルは関係ないと思っていて。「ジャンルも国境も越える」をコンセプトに、おもちゃ箱のような文芸誌にしています。
株木:僕も、この「お笑い」をつくりたいじゃなくて、コンテンツとして面白いものを目指しているので、すごく共感します。
三橋:この時代に紙で出すことの意義を考えて、本文用紙には色上質紙を何色もグラデーションにして使って、モノとして所有欲をかきたてるつくりを意識しています。第1号の「愛と再生」という詩のページには、米のもみ殻から再生した紙を使ったり、第2号では究極の黒い紙「NTラシャ漆黒」にインスパイアされた短編小説を朝井リョウさんに書いていただいたり。定価も雑誌名にちなんで、510円にしています。
ZUMA:すごい!想像していた5倍ぐらい分厚かったです(笑)。
三橋:読書体験の第一歩になればという思いも込めて、頑張っています。この中の一編でも面白いと感じてくれたら、その作家さんの新刊をチェックしたり、ほかの作品を探したりしてくれるんじゃないかって。
ZUMA:私は、舞台を年間100本観るくらいエンタメにサクッとお金を使う人生を送っているのですが、結局エンタメの何が好きかって考えると「体験」なんですね。読むという行為がちょっと先のエンタメになっている感じがして、話を聞いただけでもすご...
