生成AIの普及とエージェント時代の到来により、制作の現場は本質的なディレクション能力やビジネスリテラシーが問われるフェーズへと移行している。AIを駆使した音楽・映像制作を世の中に先駆けて進めてきた川田十夢さんと、米国・LAを拠点にグローバルで活躍するAI映像ディレクター木之村美穂さんが、AI時代のクリエイティビティの未来について語る。
ディレクションの力が不可欠に
木之村 私は元々ファッションをメインとした映像のディレクターとしてキャリアを重ねてきました。生成AIに本格的に“全振り”したのは2021年のWeb3.0の爆発的なブームのあたりから。当時は「仮想空間だの暗号資産取引所とかAIだの、怪しいからやめた方がいい」と周りからすごく反対されたんです。(笑)。特に広告業界の人たちに止められましたね。
川田 新しい技術って最初はだいたい怪しいものなんですよね(笑)。僕も2009年からAR(拡張現実)をやっているんですが、当時は誰もやっていなくて「そんな怪しいことやめなよ」って本気で言われました(笑)。
木之村 早いですね。でもあの時に一歩を踏み出して本当によかったと思います。
川田 新しいデジタルの波はプレイコストが高いので、誰もが手を出せるわけじゃない。僕もずっと手探りで続けてきましたが、自分でつくってみてたものが人にウケると「あ、これイケるな」という感触が掴めるんです。そうしたアーリーアダプターの中でも、才能がない人は自然と淘汰されて残らないですよね。
木之村 本当にそうです。武器がARだろうがAIだろうが、結局はクリエイティビティのある人しか残っていけない。AIは、初期はプロンプトを打てばなんでもつくれる夢のツールだと盛り上がりましたが、今はAIエージェントの時代に突入し、より本質的なディレクション能力や、企画を言語化できる能力が問われるようになりました。
川田 そうなると、元々ディレクションをしたことがないと難しいんですよね。
木之村 そうですね。どんな企画やストーリーか。音楽のBPMは?主人公はどんな部屋でどんな服を着て、どんなヘアメイク、スタイリングか。ロケーションや照明のイメージは――これらは広告の世界でディレクターが、現場の専門スタッフたちに指示してきたことそのものです。それを頭の中でクリアに言語化・構造化できないと、いくらツールが進化しても良いアウトプットは生まれません。
AIでの制作は“ルール整備”から
木之村 日本の企業や広告会社、プロダクション向けのセミナーの依頼も増えていますが、必ず「(AIを用いた映像制作は)誰でも簡単にできそうに見えるが、そうではない」と伝えています。最近は国内の制作会社各社もAI導入を進めていますが、クライアントとの間を繋ぐAI専門のプロフェッショナルなプロデューサーもまだ少ないと思います。さらに発注側も安さや手軽さだけを求めて依頼をしてくることもあります。
川田 価格を理由とした依頼は、ある程度は断っていいとも思っています。
木之村 同感です。先日とあるブランドから「制作期間1週間で15秒のSNS広告スポット映像をAIで2タイプつくってほしい」という依頼があって。かなり難しいオーダーで、リスク意識の低さも感じてしまいま...


