クリエイターの絵本のつくり方

公開日:2026年3月04日

  • えぐちりか、山﨑博司、柿木原政広

この10年で売上は約1.2倍、出版不況や少子化が進むなかで、絵本市場がじわじわと拡大を続けています。今回集まってくれたのは、広告やデザインの世界で活躍しながら、絵本の世界にも深く関わる3人。電通のクリエイティブディレクターとして数々の広告・プロダクト・アートを手がける傍ら、『パンのおうさま』シリーズ、『キャラとメルのおかしなバースデー』など絵本作家としても活動する、えぐちりかさん。デザイン事務所10(テン)の代表として企業や行政のブランディングやデザインを手がけるほか、『ぽんちんぱん』『ひともじえほん』をはじめ多くの写真絵本を世に送り出す柿木原政広さん。答えのない問題を親子で話し合う『どう解く?』、子どもの車中置き去り事故を防止する『ぶたすけのラッパ』といった絵本をきっかけに、社会課題解決に繋がる広告コミュニケーションを展開する、博報堂のクリエイティブディレクター山﨑博司さん。クリエイターが、なぜ絵本をつくり続けるのか。絵本という媒体ならではの価値や、作品との向き合い方を聞きました。

なぜ今も絵本は愛され続けるのか

えぐち: 普段はクリエイティブティレクターやアートディレクターとして広告をつくっていますが、昔から絵本が好きで、いつか子どもができたら自分の絵本を読み聞かせしたいと思っていたんです。学生時代に制作した「バーンブルックのたまご」というガラス製の作品も絵本のラストシーンをインスタレーションにしたものだし、ベネッセの「こどもちゃれんじbaby」の教材デザインをしたときも、頼まれてもいないのに絵本を付けたくらい。

柿木原: 僕が絵本に関わるきっかけは、2008年にアートディレクションをした『とまとさんの あかいふく』(福音館書店)で、「写真と文はすでにあるけれど、絵本にならなくて困っている」と相談を受けたことでした。それまで絵本はストーリーが大事だと思っていたのですが、編集の方が「赤ちゃんのための絵本って、投げっぱなしでいいんですよ」と言っていて。もしかしたら自分にもできるかもと感じて、『ぽんちんぱん』(福音館書店)という絵本をつくって、プレゼンしたんです。

えぐち: 「ちぎちぎぱっぱでぽんちんぱん」って、耳に残るフレーズが素敵ですよね。

柿木原: ありがとうございます。なんでそんな言葉が出せたのか、いまだに自分でもわからないのですが。その頃は仕事ばかりしていて、ろくに家族の相手ができなかったので、懺悔のつもりでつくった感じで。

山﨑: 皆さんと少し違うのは、絵本を軸にした広告コミュニケーションをしていることでしょうか。僕は博報堂でクリエイティブディレクター兼コピーライターとして働いていますが、2018年に同僚のアートディレクターと一緒に、答えのない問題について考える『どう解く?』(ポプラ社)という絵本をつくったんです。それにクライアントさんが注目してくださって、そこから仕事が広がっていきました。

えぐち: 「道徳」だから答えがひとつじゃなくて、あなたなら「どう解く?」なのですね。さすがコピーライター!

山﨑: ありがとうございます。「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」といった問いを集めた絵本で、制作のきっかけは当時、自分に子どもが生まれたこと。子どもに「いじめってよくないよね」と言っても、「よくないよね」で終わってしまいますが、そこで親子でコミュニケーションが取れるといいなと思って。

えぐち: 私が『パンのおうさま』(小学館)を出版したのは2014年。別の仕事の打ち上げで、たまたま小学館の児童書の担当の方と知り合って、「絵本を描くのが夢なんです!」という話をして、2週間後にすぐプレゼンをしたんです。ちなみに、昨年出版した『キャラとメルのおかしなバースデー』(小学館)の担当編集さんは『大ピンチずかん』シリーズ(著:鈴木のりたけ)も手がけていて、ここ数年それがヒットしていくのを間近で見ていて。

柿木原: 大人が見ても面白いし、皆が共感できるのが売れている理由でしょうね。

えぐち: ありそうでなかったところを突いていますよね。絵本ってロングセラーも多いなかで、「こんなのどう?」というように新しい提案をしてくれる作品が現れるのが面白い。

柿木原: 僕も10というデザイン事務所を経営しているので、日頃から社会に対して何か回答していくという意識で仕事をしていますが、クライアントワークでは、それがなかなか難しいことも多い。でも絵本は、純度の高いものを一直線に届けることができる。もしかするとコロナ禍を経て、いろいろなものの本質が現れている時代のなかで、結果的に絵本という存在が浮き出てきたのか...

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