なぜ人は、「怖い」を求めるのか

公開日:2025年9月08日

    お化け屋敷やホラー映画はもちろん、ネット怪談やゲーム実況、さらに没入型のイベントや展覧会など新たなコンテンツが登場し、第3次ホラーブームともいわれる昨今。残暑が厳しい9月に入ってもまだまだ、その盛り上がりは続いています。今回集まってくれたのは、2015年にホラーとテクノロジーを融合させた「株式会社闇」を設立、「行方不明展」や「恐怖心展」(9月15日まで渋谷・BEAMギャラリーで開催中)など、新たな形態の展覧会を数多くプロデュースする頓花聖太郎さん。2.5次元演劇やグランドミュージカルを中心に宣伝美術・アートディレクションを手がける傍ら、2023年からは怪談師としても活動する羽尾万里子さん。ゲームデザイナー、小説家、映画監督とそれぞれ異なる分野で作品を生み出し、9月27日まで六本木ミュージアムで開催中の「1999展―存在しないあの日の記憶―」の企画を手がけたバミューダ3の皆さん。そもそも、なぜ人は「怖い」を求めるのか。さらに拡大するホラークリエイティブの現在に迫ります。

    ホラーは今や、オシャレなカルチャーに!?

    佐藤:元々ゲーム業界で、『SILENT HILL』や『SIREN』というシリーズをつくっていて、今は独立してアニメや映画などに関わっています。背筋と西山もゲーマーで、『SIREN』繋がりで知り合った3人組で「バミューダ3」というユニットを結成して、「1999展」を企画しました。

    西山:主に実写映画の監督をしていて、1999展ではポスタービジュアルや映像のディレクションを担当しました。ちなみに僕は、1999年6月生まれ。ノストラダムスの大予言が当たっていれば1カ月の命になるところでしたが、違う世界線になったので、晴れて映画をつくれるようになったと。

    背筋:『近畿地方のある場所について』という作品でデビューして、ホラー小説などを書いています。1999展では、全体の世界観やストーリー部分を担当しました。

    頓花:株式会社闇というホラー専門のクリエイティブカンパニーで代表を務めています。お化け屋敷のプロデュースから映像制作、展覧会まで、ホラーと付くものなら何でもやっていて、今年10周年を迎えました。

    羽尾:私は本業がグラフィックデザインで、2.5次元演劇やグランドミュージカル系の宣伝ビジュアルを制作しています。その傍ら、2年前から怪談師として活動を始めて、妖怪番組のMCやYouTubeのほか、最近では『池袋怪談』という本を出版しました。

    頓花:実は僕、普段『ブレーン』を読んでいるのですが、たぶん読者はホラーが好きじゃないんじゃないかと思っていて。「今ホラーがきてる」っていうことを伝えるのも、今日来た目的のひとつで。

    佐藤:今の状況って、第3次ホラーブームだと思うんです。第1次が1980年代のアメリカンホラーのムーブメントで、第2次が1990~2000年代のJホラーブーム。

    頓花:そこからちょっと空きましたよね?

    佐藤:ホラーゲームはただでさえ10万人しかパイがないといわれているので、「ホラーってもう死ぬのかな」と思っていました。

    頓花:それが今や、背筋さんをはじめ、僕らもよくご一緒している梨さんや雨穴さんなど新世代のホラー作家が登場して、若い人たちの楽しみ方もOSレベルで変わった感覚があります。佐藤2ちゃんねるのオカルト板から根付いたネット怪談的なものが、その3人で結実した感があります。

    背筋:私自身、日陰者の自覚はあったので、同好の士に向けて書いたものがマスに響いたのは、すごく意外で。そういう意味では、ホラーの潜在層が思ったよりも多くて、それが表層化したということなのかなと。羽尾YouTubeとか、SNSの影響も大きいですよね。

    頓花:今まで苦手だった人も、ホラーゲームの実況を一緒に見ることでワイワイ楽しめる。それこそ背筋さんの小説が「カクヨム」に投稿されていたときも、物語を一緒に追えているお祭り感がありましたよね。

    羽尾:「恐怖心展」に合わせて放送されたドラマ『魔法少女山田』も、SNSでの考察合戦がすごかったですし。

    佐藤:人が死んで血がドバーっとか、怪物が出てきてギャーだけじゃない、いろんなホラーのジャンルが受け入れられてきている。もっと言うと、ホラーがオシャレなイメージになってきたというか。

    西山:映画の世界もそうで、アメリカの独立系映画会社・A24の『ミッドサマー』をはじめ、若い人たちを中心にホラーがカルチャーとして捉え直されている気がします。ただ怖いではなく「あれ怖かった」と語り合いたいし、それを発信したい。

    佐藤:ホラー=オシャレという空気感をつくったのは、頓花さんの「行方不明展」や「恐怖心展」も手がけている、デザイナーの大島依提亜さんの存在が大きい。

    西山:ヒグチユウコさんが描いたイラストTシャツが売っていると聞いて、買いに行きましたから。そういう間口の広げ方は、興味がなかった層にも刺さっていますね。頓花19...

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