書店が「場」として再定義されつつある中で、その潮流はオンラインにも広がっている。フヅクエの阿久津隆さんが開発した読書記録SNS「Reads」は、読了や完成された感想を前提としない、新しい読書のあり方を提案するアプリだ。その先で目指すのは「気兼ねなくいられる場」としての読書体験。その思想と設計を紐解く。
読書記録SNSアプリ「Reads」のタイムライン。書籍情報をベースに、読書状況のタグや自由なコメント、写真を付けて投稿できる。購入した書店もタグ付け可能。
読書記録へのモヤモヤがきっかけに
「Reads」は読書の記録を投稿・共有できるSNSアプリで、2025年3月にリリースされた。書籍情報と紐付いた形で、読書中のメモや読了記録などを自由に投稿でき、タイムライン上には他者の記録が時系列で流れていく。特徴的なのは、投稿の単位が「一冊」ではなく、「読んでいる途中の断片」でも成立する点にある。「読み始めた」「読んでる」といったタグが用意されている。
阿久津隆さんが「Reads」の開発を始めたのは、2024年の7月頃。読書記録についての違和感が背景にあった。「僕は記録するのが大好きで、高校生の頃から読書記録をつけているんですが、大人になってなんだか記録がおっくうになってしまうことがあって。それはきっと、一冊を読みきったうえで記録をするということに縛られ過ぎているのだと思ったんです。読み終わらなくても、本を読み進めるその時々の記録でいいのではとふと気付き、記録の仕方を『一冊ごと』から、その日読み進めた分を記録する『一日ごと』に変えました。すると、あ、これで良かったんだ。皆こうしたらいいのに、と思うようになって」。従来の多くの読書記録アプリは、「読み終えた本」を前提として設計されてきた。しかしそれは、ときに読み終えることを目的化し、読書そのものの自由さを損ないかねない。
さらにもうひとつの課題が、「感想を書くこと」へのプレッシャーだった。「読んでいる最中から“ここ(記録に)書けるな”みたいに考えてしまうと、読書に集中できなくなってしまう(笑)。きれいにまとめた感想を書くことと、本を楽しむことは本来別の競技だと思うのですが、それぞれ文字を媒介しているからか、両方うまくやらなきゃいけないと勘違いしてしまう人も少なくないと思うんです。結果、やけに感想を書くことへのハードルが上がってしまい、読書からなんとなく遠ざかってしまうという人もいると思います」。
こうした阿久津さん自身の問題意識が発端となり、「読了しなくてもいい」「うまく言語化しなくてもいい」という前提を持つ場として、「Reads」は構想された。
“気兼ねなくいられる場”をオンラインに
この思想は、アプリ単体で生まれたものではない。阿久津さんが初台・下北沢・西荻窪で運営する「本の読める店fuzkue」での経験が、そのまま活かされている。「fuzkueにいると、みんな明らかにいい読書時間を過ごしているんですよね。それを見ていると、読んでいる間が充実した時間だったら、うまく言葉にできるかどうかとは関係なく、それだけで十分完璧だと思うんです。とにかく気兼ねなくいられる、本を読める場所をつくりたい、というのが根底にあります」。この考えは、「Reads」の体験設計にも一貫して反映されている。たとえば「Reads」では、投稿の形式や記録の仕方が厳密に決められていない。読書中の一言メモでも、写真付きの状況記録でも、濃厚なレビューでも良い。実際の利用者も、「都度メモする」「読み終わった本だけ記録する」「SNS的に使う」など、多様な使い方をしているという。
書籍ごとに、さまざまな人の投稿をまとめてみることも可能。1冊の本に対して、その時々にふと思ったことを残していくような使い方もできる。
投稿時のタグ画面。「気になる」「借りてきた」「再読中」「じゅうぶん読んだ」「積読中」「またいつか」「心に残る一節」など、本とのさまざまな距離感をタグとして用意しているのがユニーク。
自分の読書記録画面。タグごとに管理ができるほか、表紙一覧として、自分だけの本棚のように表示させることもできる。
また、一般的なSNSで起こりがちな圧力からも解放される場だと話す。「本当は読んだ本について何か話したいのに、XやInstagramに投稿するとなると、『自分のキャラクターでこの本を読んでいることを、人はどう思うんだろう?』とか、余計なノイズが生まれてしまう。その点、『Reads』は本の投稿しかできないので(笑)。本についての投稿をすることの意味が逆に希薄になって、安心して発信できる場になっているのではないかと思います」(阿久津さん)。
心的ハードルを下げる体験設計
「気兼ねなくいられる場所をつくりたい」。その思いは、アプリの仕様にも表れている。特徴的なのが、2026年2月に実装されたネタバレ回避機能だ。
まずユーザーは、どこまでのネタバレは見たくないか、「何も知らずにいたい」「展開は知りたくない」「結末は知りたくない」など5段階から設定する。そして投稿内容をAIが読み取り、「どの程度のネタバレを含むか」を判定。設定したレベルよりも高いネタバレ度と判定された投稿は、本文がぼかされた状態で表示される。
従来のレビューサービスでは、「ネタバレかどうか」の判断を投稿者に委ねるケースが多かった。しかしその仕組みは投稿者が「どこまでがネタバレなのか」を考える必要があり、負担になりやすい。Readsではネタバレに関する責任をAIと運営側が担うことで、投稿者の心的ハードルを下げることを優先しているのだ。「ネタバレの問題は、内容そのものよりも、そこで生じるモヤモヤとかヘイトがユーザー同士に向いてしまうことだと思っていて。それを背負わせない形にしたかったんです」。
さらに、アプリ内の「お知らせ」の言葉遣いや問い合わせ対応にも工夫が。あえてフランクな言葉や、時には絵文字を用いている。「これは店舗のfuzkueでも大切にしているんですが、こちらがリラックスしていなければ、お客さんもリラックスして相談したり、その場を楽しめたりできないと思うんです。まずは自分たちが先に緩むことで、場の空気が決まると思っています。Readsの方では、どこかで怒られたらまた変えるかもしれませんが(笑)」。
現在は約2万の月間アクティブユーザーがいるというReads。「運営側がこういう形がいいですよと設定するよりも、ユーザーそれぞれがしっくりくる形に合わせていける場でありたい。その方がヘルシーですし、きっと本を自由に楽しめる人が増えると思います」(阿久津さん)。
フヅクエ 代表 阿久津隆さん。


