「続けさせるCRM」から「気付かせるCRM」へ AI時代のロイヤル顧客育成論

公開日:2026年6月30日

  • 宮前政志氏(電通)

AIが商品を推薦してくれる時代になったが、生活者はその答えをうのみにするのではなく、SNSやコミュニティで「自分の界隈に合うか」を確かめている。そうした購買行動を経てロイヤル化していくAI時代の生活者に、従来型の囲い込むCRMは有効とは言えない。偶発的な購買を自分らしさの発見と継続利用へつなげる、新たなロイヤル顧客育成の考え方について、電通 データマーケティング局 グロースコンサルティング1部 部長の宮前政志氏が解説する。

「確認」のために残る検索行動 AIは推薦する、界隈は保証する

マーケティング業界では近年、「GEO」という言葉が広がっています。これまでのSEOが「Googleで検索されるための最適化」だったのに対し、GEOは「AIに推薦されるための最適化」を指します。確かにAIは便利です。「おすすめの美容液は?」「高評価の電動歯ブラシは?」こうした質問に対し、AIは膨大な情報を整理し、最適な候補を瞬時に提示してくれます。

しかし私は、GEOという考え方に少し違和感を持っています。なぜなら、実際の購買行動はAIに推薦された瞬間に終わらないからです。SEO時代、生活者は自ら検索し、自社サイトを見て、口コミを読み、比較サイトを巡回しながら商品への信頼を確かめていました。時間をかけて情報を収集し、自分なりの納得をつくっていたのです。

一方、AI時代になると、この情報収集の大部分をAIが代行するようになります。すると検索は不要になるのでしょうか。実際にはそうではありません。むしろ検索の役割そのものが変わり始めています。これまで検索は「発見」のために行われていました。しかしAI時代の検索は「確認」のために行われます。生活者はAIから推薦を受けた後に、SNSやコミュニティへ移動し、その商品の空気感を確かめます。「本当に人気があるのか」「どんな人が使っているのか」「自分と同じ価値観の人たちはどう評価しているのか」。そこで確認しているのはスペックではありません。「このブランドは自分の所属する界隈に受け入れられているか」という所属感です。

AIが正解を提示しても、人は最後に“人間の空気”を見に行きます。AIを信用していないのではなく、AIだけでは安心できないからです。そのためAI時代のブランド設計は、AIに推薦されるだけでは足りません。必要なのは、AIに推薦された後に界隈で信用保証されることです。私はこの視点を「TEO(Tribe Engine Optimization)」と呼んでいます。

GEOが「AI推薦最適化」だとすれば、TEOは「界隈文脈最適化」です。AIが発見を担い、界隈が信用を担う。これからの購買行動は、この二段構造で理解する必要があります。そして、この変化はCRMのあり方そのものを大きく変え始めています。

「計画購買」と「偶発購買(※1)」の違いを説明するとき、私はよく「婚活と恋愛」の違いに例えます。

※1 目的なく情報回遊をするなかで、商品をSNSで発見したり特定コミュニティから推奨される、もしくは店頭での偶発的...

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CRMはこれまで、ポイントプログラムや会員制度といった施策の文脈で語られることが少なくありませんでした。しかし本来CRMとは、顧客との関係性をいかに設計し、ブランド価値の向上につなげるかという経営にかかわるテーマです。単なる囲い込みではなく、顧客に「選ばれ続ける」状態をどうつくるか。その実現には、ロイヤル化とファン化の双方を統合的に捉える視点が欠かせません。さらに現在、AIの浸透により購買行動は大きく変化しています。検索や比較、意思決定のプロセスにAIが介在することで、企業と顧客の接点は再編され、従来のような接触頻度や施策の最適化だけでは関係性を維持できなくなりつつあります。これからのCRMには、機能価値だけでなく意味や体験を通じてブランドと顧客の関係を深化させる設計が求められます。本特集では、「囲い込み」から「選ばれ続ける」への転換を起点に、ブランド、ロイヤル化、ファン化を統合したCRMのあり方を再定義。業種・商材別の実践事例と、AI時代の購買プロセスの変化を掛け合わせながら、顧客との関係性をいかに構築し持続させるのか、その本質に迫ります。

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