心を揺さぶる感動体験が事業成長の鍵「黒ラベル」の“押し付けない”伝え方

公開日:2025年12月26日

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    2010年の「大人エレベーター」シリーズを皮切りに、心を動かすコミュニケーションを展開してきた「サッポロ生ビール黒ラベル」は、2014年からの約10年で缶の売上が2倍に伸長した。一方、大広も2025年に「感動体験」を核とするメソッドを発表し、両社は“体験の質”を価値の中心に据える点で共通している。体験価値をどう事業成長へつなげるのか。サッポロビールの黒柳真莉子氏と、20年近くサッポログループを担当する大広の倉田潤氏に話を聞いた。

    機能的価値から「情質価値」へ 「黒ラベル」のブランディング

    ―サッポロビールでは、2025年から全社で“情質価値”をブランディングのキーワードに掲げています。どのような背景があったのでしょうか。

    黒柳:現代の消費者は、機能的価値に関するニーズはすでに満たされているばかりか、大量の情報の洪水の中にいます。こうした環境で重要度を増しているのが、感情を揺さぶる体験です。技術の進化で“モノの良さ”の差が見えにくくなる中で、体験という直接的な接点の価値が高まっていると感じます。そして、膨大な情報にさらされる今、情報を吟味する手間は消費者にとってストレスに。その意味でも「まず体験したい」というニーズは一層高まっていると言えるのではないでしょうか。

    ―大広でも2025年、「感動体験」に基づく新たなマーケティングメソッドを発表されました。

    倉田:マーケティングは競争から価値創造へと流れが変わってきていると感じています。私たちは顧客・企業・社会の想いが交わるところに新しい価値を創出し、想像以上の未来を実現していきたいと考えています。

    そのためのメソッドとして、感動体験を軸とした「ダイレクトドリブン・マーケティング」を発表しました。顧客との直接的な接点で心を強く揺さぶり、購買行動や愛着を強化し、事業成長の実現につなげていくという考え方に基づいています。

    ―感動体験の設計のプロセスとはどのようなものでしょうか。

    黒柳:私たちが最も大切にしているのは「押し付けない」ということです。機能的な価値を一方的に説明するのではなく、受け手に解釈を委ねることを意識しています。また情緒的なメッセージは機能的なそれよりも、押し付けがましくなりやすい。だからこそ受け手に解釈の余地を与える「余白」が大事だと考えています。

    倉田:わかりやすい「答え」を提示した方が伝達スピードは速まるかもしれませんが、受け取って終わりになりやすいという側面があります。なぜなら「答え」には余白が少ないからです。私たちは「問い」を起点とし、一人ひとりの顧客に考えを委ねるというコミュニケーションを「黒ラベル」の全ての接点で通底させています。自分の中で考えて消化する時間や、自分とブランドを重ねる時間をつくることで、心揺さぶられる体験を生み出せると考えています。

    黒柳:このとき、余白をつくりながらも、「生のうまさ」という機能的価値と、ブランド独自の「大人の世界観」という情緒的価値を両輪で回すことで、ブレないブランドの軸を築けています。

    倉田:2年前には、私たちもお手伝いして、ワークショップ形式でブランドのビジョンや人格などについて対話を深めながら「ブランドブック」を作成しました。このブックに記載した歴史や物語、軸となるメッセージは、ブランド体験拠点である「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR」のメニューにも記載し、飲用体験とともにブランドの世界観が伝わるようにしています。

    図表 「サッポロ生ビール黒ラベル」の感動体験設計のプロセス

    ―「THE BAR」などの体験の場は事業にどう寄与していますか。

    黒柳:当社は恵比寿や北海道などさまざまな土地とのつながりやルーツを持ち、サッポロビール園や工場、グループ企業であるサッポロライオン社が運営するビヤホールなど、物語性のある場を提供してきました。また「黒ラベル」では、2014年から良質な樽生ビールを提供する飲食店の認定制度「ザ・パーフェクト黒ラベル」を開始するなど、飲用体験の質向上に取り組んできました。

    倉田:短期的な売上達成だけでなく、未来の顧客の創造につながるブランドの「資産」を、どれだけ豊かにできるかも重要です。すぐに売上につながるわけではなくても、体験が積み重なることで、「自分にとって黒ラベルはこういうブランドなんだ」というナラティブ(語り)が生まれます。

    黒柳:「THE BAR」に来店されたお客さまを対象に実施した調査では、缶の購買量が増えているという定量的なデータが得られています。さらに、成人を迎えたお子さんの“初めてのビール”として、親子で訪れてくださったというエピソードも。「人生の節目に記憶に残るブランド」として、お客さまと物語を紡ぐことができていることに、喜びを感じます。

    ―AIやデータ活用が進む中、人の感情や体験価値はどのように変化するとお考えですか。

    黒柳:AIは最適な解を導き出しますが、だからこそ「人それぞれの感性」がより重要になってきます。言語化できない心に響くもの、正解がないものこそが、今後、際立って輝いていくと考えます。

    倉田:AIの活用によって新たな体験が生まれていくと同時に、AIに委ねすぎると考えや行動の余白が減っていく可能性もあります。だからこそブランドが余白を意識した体験を積極的に生み出し、「その人なりのブランドとの物語」を紡ぐことが一層重要になると考えています。

    ―最後に、今後の展望をお聞かせください。

    黒柳:今後、「ビール好き」ではない方からも愛されるブランドを目指していきたいです。「丸くなるな、☆星になれ。」というブランドメッセージに込めたように、お客さまが「自分らしさ」をさまざまな形で表現でき、ビールを楽しむ時間がよりポジティブなものになっていけば嬉しいです。

    倉田:私たち自身がひとりの顧客としてさまざまな体験に触れ、その体験を仲間と共有し、「自分はどこに心を動かされたのか」という主観を大切にして、対話を深めていこうと思います。それによって、感動体験を生み出し、新たな価値を創造するマーケティングを実現していきたいと考えています。

      お問い合わせ

      株式会社大広 ビジネス戦略本部 広報局 広報部

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      TEL:03-4346-8111
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