人が「メディア」になる時代 信頼を生むインフルエンサー・マーケティング

公開日:2026年8月31日

  • 菅野佐織氏(駒澤大学)

AIコンテンツが普及する今、従来の「映え」より飾らない「オーセンティシティ(真正性)」が求められている。本稿では駒澤大学の菅野佐織教授が、信頼を形成する5つの要素や「誠実さ」「透明性」の重要性を解説。インフルエンサーを単なる拡散者ではなく、ブランドの価値を共創するパートナーとして捉え直す視点を提示する。

駒澤大学
経営学部
教授
菅野佐織氏

専門は消費者行動(ブランド・リレーションシップ、ファン心理、インフルエンサー・マーケティング、サステナブルな消費者行動の研究)。日本消費者行動研究学会および日本マーケティング学会の理事を務める。

Instagramは「映え」から「オーセンティシティ」へ

MetaのInstagram責任者であるAdam Mosseri氏は、2026年の年始に向け、印象的な言葉を投稿した。

“That feed is dead.”(かつての「映える」フィードはもう終わった。)

Instagramといえば、美しく整えられた写真が並ぶ「映える」フィードが、その象徴だった。しかしMosseri氏によれば、人々は数年前から、個人的な瞬間を公開フィードで共有することが少なくなっている。日常の写真や動画は、ストーリーズやDMへと移り、そこで交わされるのは、ピントがぼけた写真や手ブレした動画など、飾らない日常の断片である。

こうした変化は、Instagramに限らない。理想化された自分自身や華やかな生活を発信することが主要な戦略だった2010年代から一転し、今日では、ニキビ跡やしみを隠さないインフルエンサーや、自身の病気や失敗、挫折を率直に語るインフルエンサーが増えている。

もちろん、憧れや完璧さを演出するコンテンツの魅力が失われたわけではなく、美しい写真や洗練されたライフスタイルは、今も多くの人々を惹きつけている。ただし、人々が求めるものは、完成された姿だけではなくなっている。その背景にある努力や迷い、失敗、葛藤まで含めて、その人を立体的に理解したいという欲求が強まっているのである。

生成AIによって、完成度の高い画像や動画を誰もが容易につくれるようになった今、視覚的な美しさや完璧さだけでは、発信者のオーセンティシティ(真正性)を示すことは難しくなっている。むしろ、飾らない姿や日常を、本音や自分らしい語りを通じて伝えることが、オーセンティシティを判断する手がかりとなり、フォロワーとの心理的距離を縮め、インフルエンサーへの信頼を形成していく。

しかし、話はそれほど単純ではない。ありのままの自分を見せることが、インフルエンサーへの親近感や信頼を生んだとしても、それがブランドへの信頼につながるとは限らない。重要なのは、そうした開示が本人の価値観や日頃の発信と一貫し、ブランドとの提携が納得できるものとして、消費者に受け止められるかどうかである。

AI生成コンテンツが広がる現在、オーセンティシティは、現代のコミュニケーションを特徴づける中心的課題となっている(Lee,2025)。そこで本稿では、インフルエンサーのオーセンティシティに着目し、人がメディアになる時代に、...

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インフルエンサーマーケティング 生活者とつながる共感の設計

インフルエンサーマーケティングは、もはや定着したコミュニケーション手段となりました。しかし、生成AIの普及や情報の氾濫に伴い、単なる拡散(リーチ)ではなく、発信者自身の体験や価値観に根ざしたオーセンティック(真正性)なコミュニケーションと、それを通じた強固な信頼関係の構築が求められるようになっています。本特集では、「人がメディアになる時代」におけるインフルエンサーマーケティングを、単なるSNS施策を超えた「ブランドと生活者の信頼・共感を紡ぐ戦略」として再考。最新の信頼意識調査や消費者行動の分析に加え、アーティストとの対等な商品共創、社員インフルエンサーの組織的活用、コミュニティ醸成、バーチャルヒューマンによる一貫した世界観の構築など、最前線の事例をひも解きます。

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