検索エンジンの進化と生成AIの普及により、生活者の情報収集行動は急速に変容している。従来の単純なファネル型の購買行動モデルでは捉えきれない、「探索」と「評価」を繰り返す意思決定に対して働き掛ける必要が生まれている。生成AIを活用しつつも、単なる情報提供ではなく、生活者が探索そのものを愉しめる体験設計が求められる時代、情報体験の再構築の意義について、東京理科大学経営学部国際デザイン経営学科の柿原正郎教授が解説する。
いよいよ始まった検索エンジンと生成AIの融合
検索エンジンの登場から約30年が経ち、「ググる」という言葉が若干、陳腐な響きさえ含むほど、検索エンジンは私たちの生活のさまざまな場面に浸透しました。さらに2010年代以降には、SNSを使った情報収集も加わり、他者の評価や体験情報、口コミなどにも瞬時にアクセスできるようになり、現代の生活者の情報収集手段はますます多様化しています。
「ChatGPT」が2022年11月に公開されてから、5日で100万人、2カ月で1億人が利用するようになるという驚異的な普及を遂げ、この3年で生成AIは私たちの情報へのアクセスや利用を急激に変貌させました。さらに、検索エンジン企業最大手のGoogleは、生成AIによる要約を検索結果画面に提示する「AI Overviews」や、生成AIによる対話型UI「AIモード」を日本国内でも提供し始めたことで、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」という同社のミッションを、さらに新たなステージに進めようとしています。
生活者の情報収集行動はファネルからメッシーミドルへ
生活者の情報収集行動が変化をしているのだとすれば、それに合わせてマーケティング・コミュニケーションも変化を余儀なくされます。生活者は、オンライン上のさまざまな情報に、どのようにアクセスするのか、またその情報取得が商品やサービスの購入や利用の意思決定にどのようにつながるのか?こうした人間の認知プロセスを理解するにあたっては、従来は漏斗型の「(パーチェス)ファネル」の枠組みが利用されてきました。
それが、2010年代以降のSNSの普及や、スマートフォンを利用した「いつでも・どこでも」という情報アクセスの向上により、ファネルの中位部分=「ミッドファネル」において、より複雑な情報収集行動が見られるようになったと指摘されています。
Googleの研究チームは認知科学の研究と実験を重ね、こうした生活者のファネル中位での情報収集行動を「メッシーミドル(messy middle、煩雑な中間部)」として概念化しました(日本国内では「バタフライ...


