近年、生成AIをはじめとするテクノロジーの進化は目覚ましく、マーケティングの現場にも大きな変化をもたらしている。しかし、その技術をどう活用し、企業成長に結びつけるのか、その「戦略」の担い手こそが、いま必要とされている。運用型テレビCM事業から始まったテレシーは現在、コミュニケーション戦略の策定から施策実行、人材育成まで、一貫した企業の成長支援を行っている。事業の立ち上げ当初からプロジェクトを推進してきた同社代表取締役の川瀬智博氏に、AI時代におけるマーケティングの本質的な課題、そして「人とテクノロジーの融合」が企業にもたらす真の価値について話を聞いた。
テクノロジー×人の力で生産性を追求する
―テレシーは2021年1月の設立以来、運用型テレビCM事業を軸に統合的なマーケティングコミュニケーション施策を提供しています。これまで多くの企業の事業グロースを支えてこられましたが、その背景にある貴社のコアバリューは何だとお考えですか。
運用型テレビCMの事業は、2020年7月、VOYAGE GROUP(現:CARTA HOLDINGS)と電通の共同事業としてスタートしました。当社の競争優位性は、電通が持つコミュニケーションの力とCARTA HOLDINGSが持つテクノロジーの力、両グループの強みを最大限に活かせること。この強みを活かす形で「テレビCM×テクノロジー」を軸とした事業を展開してきました。
しかしこの5年間、さまざまな企業の皆さまとお取り組みをする中で、私たちのコアバリューは、テレビCMを軸としつつも、「テクノロジー」と「人の創造性・意思決定力・実行力」を掛け合わせる点にあると再認識しました。
確かに、「テレシーに問い合わせをする理由」としては、やはりテレビCMの出稿や、その効果を即座に可視化できるというテクノロジーに対する期待があります。一方で、最終的に私たちが「選ばれる理由」は、同じ目線でプロジェクトを進めていくという点。
クライアント企業様が策定している戦略を深く理解し、そこに私たちの専門性を掛け合わせることで、確実にグロースへつなぐ「人の力」、すなわち伴走体制にあると認識しています。
この数年で、顧客の事業成長に伴走し成果を確実にするために、マーケティングに関わるさまざまなプロダクトを提供するに至りました。そして、これらのプロダクトの進化においては、技術開発力だけでなく、私たち一人ひとりのスキル向上や組織づくりも重要。そこで制度改定やインターナルブランディングも進めてきました【図表1】。
図表1 テレシーが大切にしているバリュー「4 Spirits」
会社設立時から行動指針として掲げる「4 Spirits」を、2024年12月のコーポレートリブランディングの際にバリューとして再整理。また、CARTA HOLDINGSで法人向けeラーニングシステムを提供する「D-Marketing Academy」のサービスを導入するなど、人材育成にも注力している。
企業の急成長を支えるテレシー流の伴走支援
―テレシー自身も、短期間での事業成長を実現されてきましたが、スタートアップ企業の垂直立ち上げにおいて重要なこととは何でしょうか。
スタートアップ企業は少人数で多くのことを実行していくことになるため、全体を俯瞰で見る人が重要になります。それは主には経営者です。ただ、その想いを再現性がありスケールできるものにするためには、同じ目線でサポートして次のステップに適切につないでいくことが大切です。私たちは、その想いを実現に導き、成長を加速させるためのプロフェッショナルなパートナーでありたいと考えています。
そうした中で、私たちのような外部パートナーは企業の「戦略立案」をお手伝いしますと謳うことがあります。しかし、スタートアップ企業は特に、すでに明確な事業戦略やマーケティング戦略が存在しています。なぜなら、確固たる戦略があるからこそ、企業は立ち上がり、事業を推進できているからです。だからこそ我々の役割は、その企業が策定している戦略を深く理解し、そこで不足している、例えばクリエイティブやメディアの戦略をつくりこみ、具体的な実行プランに落とし込むことにあると考えています。
―これまでさまざまな企業と向き合ってきた中で感じる課題感などはありますか。
スタートアップを取り巻く環境は、この10年ほどで大きく変化してきました。特に「第4次ベンチャーブーム」と呼ばれる波が起きた2013年頃や、政府が「スタートアップ創出元年」と位置付けた2022年を経て、多くの企業が立ち上がりました。創業から数年が経過した現在、短期的な成果を追求するフェーズを終え、次の成長への壁として特に「ブランド戦略」に悩んでいるという声が多いと感じます。
いわゆるスタートアップにおける投資ラウンドであるシリーズA、Bのフェーズにおいては、まずは短期的なコンバージョンを優先した施策が重視される傾向にあります。安定的な利益を得られるようになって、その次のフェーズでブランディングに移行する。短期的なCPAだけでなく、長期的なKPIやKGIとの両立を図らなくてはいけないのです。「運用型テレビCM」はまさに、デジタル広告の文脈でマスにアプローチし、グロースに寄与する仕組みですが、短期的な成果に留まらず、そこからさらに先の事業成長までサポートしていくことが、私たちの目指しているところです。
AIによる「超・業務効率化」と「育成スピードの高速化」
―AIが普及する今の広告・マーケティング領域において、「人の力」はどのように定義されるとお考えですか。
AIは革新的なツールであり、その提供価値は2つの大きな柱に集約されると考えています。ひとつが、これまで人が費やしてきた労力を大幅に削減する「超・業務効率化」。もうひとつが、その結果、戦略を深く考える機会が増えることによる「育成スピードの高速化」です。
そのため、私たちの主な提供価値は「AIツールそのものの提供」ではなく、AIを駆使した「人間の意思決定支援」にあると考えています。
特にブランド戦略において起こりがちなのですが、「ブランドとしてどちらの方向に向かいたいか」というのは、正解があるものというよりは、どう意思決定するかにかかっています。例えば2つの相反する意見があったとして、究極的にAIはどちらも勝たせることが可能です。AIが提示した複数のシナリオの中から、企業のビジョン、未来の顧客体験、そして許容可能なリスクなどのデータに存在しないさまざまな要素を考慮し、問いを立て、勇気ある決断を下すことは、いつの時代も「人」にしかできません。
テクノロジーが進化すればするほど、その技術を使いこなし、意味のある戦略を立案できる「人」の重要性は、相対的に、そして絶対的に高まっていくのです。この人材育成と組織能力の向上こそが、マーケティングの未来を左右すると考えています。
―ツールとして効果測定や分析を提供することで、「人」の価値を最大化するということですね。
はい。もちろんデータと真逆のことを言ってはいけませんが、データを基にした上で、取り得る選択肢はたくさんあると思います。
社内においては、そうした意思決定の質を担保するため、常に「なぜそうしたの?」という問いを突き詰める文化を大切にしています。「何を根拠としているのか」「誰が発言し、それはみんなが納得しているのか」といった問いを重視しています。私たちが勝手に想像して提案するのではなく、クライアントとワンチームになって目線を合わせるからこそ、もしクライアントや市場に大きな変化があったときにも柔軟に対応できる。また、この土台があるからこそ、クリエイティブジャンプにもつながると思うのです。
設立当初から、私たちに期待されているのは「テレビCMとその効果分析」かもしれません。しかし、真摯な姿勢で本質的な課題と向き合い、深い顧客理解に努めてきたからこそ、これまでの長期的なお取り組みにつながってきたのだと考えています。
―社内においての人材育成や組織課題の解決については、どのようなアプローチを行っているのでしょうか。
企業が持続的に成長するためには、自社で戦略立案・意思決定・実行のサイクルを回せる組織を構築することが不可欠です。私たちは、この「組織的な課題」の解決にも深くコミットしています。
そのひとつとなるのが、グループ会社のD-Marketing Academyが提供する人材育成ソリューションです。これは、CARTA HOLDINGSグループが持つ最先端の知見と実践的なフレームワークを体系化したもので、1000本以上の動画コンテンツや学習システムを法人向けに提供しています。私たちグループ内でも、社員のスキル底上げを目的としてこのeラーニングシステムを導入しています。
1講座あたり10分弱の短い動画で構成されているため、忙しい中でも、移動時間や隙間時間を利用してマーケティングや、最新のAI活用法を体系的に学ぶことができます。
この学習を通じてクライアントが何を目指しているか、どういう構造で事業を行っているかという本質的な理解が深まり、伴走支援の質も向上します。テクノロジーによる効率化と並行して「人」への投資を行うことで、クライアント企業の戦略立案力を高め、伴走支援体制をより強固なものにしていきたいと考えています。
―最後に、今後の展望についてお聞かせください。
今後、特に注力していくのは、データとクリエイティブのさらなる融合です。
現在、新たに提供している「ライトニングシリーズ」では、AIを活用したクリエイティブ制作や高速PDCA、予算配分の検証などをサポートします。しかし、単に「安く」「早く」というだけでは不十分です。そこからいかに確かな効果を出していくかというのが私たちの役割です。
キーワードのひとつが「共感とリフレイン」です。情報過多の現代、どんなに情緒的なアプローチをしても、生活者にとって「自分ごと化」ができないと、すぐに流されてしまいます。そのため、まずは共感してもらうことが何よりも大切です。
そして共感できたとしても、その人の中で悩みや需要が顕在化していなければ、次の行動に移ることはありません。だからこそ、実際に顕在化されたタイミングでリフレイン、すなわち想起させる仕掛けが重要です。「共感とリフレイン」、この2つをもたらす仕掛けが揃うことで初めて、広告効果が出てきます。
私たちは2024年、立案プロセスを体系化した戦略フレームを作成しました【図表2】。今後さらに、要素分解を進めていきたいと考えています。
図表2 マーケティング・コミュニケーション戦略フレーム
マーケティング・コミュニケーションの戦略から戦術に至る複雑な立案プロセスを、構成要素ごとに分解・可視化したフレームワーク(2024年・テレシー)。
お問い合わせ
株式会社テレシー
TEL:03-4577-1469
E-mail:telecy_contact@cartahd.com
