2023年10月1日から「ステルスマーケティング(ステマ)」は、景品表示法違反となり、インフルエンサーマーケティングを取り巻く環境は大きく変化した。こうしたなかで重要性を増すのが、ブランドの世界観を伝えるPGCと、生活者の実感を伴うUGCをどう統合していくかという視点だ。ステマ規制時代における信頼構築について、クチコミマーケティング協会(WOMJ)運営委員会委員長の藤崎実氏が解説する。
「隠す」から「明かす」へ 法的義務は信頼のスタートライン
「ステマ規制」の施行により、広告主である事業者が自らの存在を隠して第三者に商品・サービスを紹介させることは法的に禁止されました。なお事業者がインフルエンサーに商品・サービスを紹介してもらうインフルエンサーマーケティング自体は悪いものではありません。しかし悪意のあるなしにかかわらず、それが「事業者の表示」かどうか消費者から見て判別が困難になっていると、不当表示になるのです。
施行から2年以上が経過し、現在SNS上には「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった「事業者の表示」であることを示す文言を使用した上での商品・サービス紹介が行われるようになっています(※1)。その一方で、今でもマーケティングの現場では、広告であることを明示すれば消費者に嫌われて効果が激減するのではないかという懸念が多いのではないでしょうか。しかしWOMJによる調査(※2)では、そうした不安とは異なる、より成熟した消費者の実態が報告されています。
※1 消費者庁によれば、他にも例えば「A社から商品の提供を受けて投稿しています」などと言葉で示しても良いとされています。
※2 2025年3月公開「インフルエンサーマーケティングの信頼性についての意識調査」
調査によれば、関係性明示がある投稿を「単なる広告だと思っている」人は36.4%にのぼり「『#PR』『#プロモーション』などがあっても特に気にすることはない」は18.4%という結果です。こうした「特に気にしない」「企業への親しみやすさが増す」などのポジティブ評価は20代男性で高いことも示されました。さらに注目すべきは、14.9%の人が「PR投稿であることを正直に説明しているので好感が持てる」と答えているのです。一方でインフルエンサーについて、36.1%の人は「信頼できる人と信頼できない人がいる」と回答し、消費者は発信者個人の資質を見極めているという結果も出ています。
つまりステマ規制という法の施行は、消費者に対してネガティブに働いているわけではなく、情報の出所を明確にして消費者に誠実にそのことを明かすことで「信頼の基準」になっていると考えることができるのです。
ブランドの世界観をつくるPGC 確からしさを育むUGC
それでは「事業者の表示」であるという関係性を明示したうえで、消費者は何をもってインフルエンサーの情報を「信頼」するのでしょうか。WOMJの調査では、信頼性に影響する要素として「社会人としての常識やマナー(30.6%)」や「良いところと悪いところの両方を説明(29.7%)」が上位を占めています。対照的に信頼を損なう理由として、「自分の金もうけのためだ(24.0%)」「本心ではよいとは思っていないのに推奨する(21.2%)」という点が挙げられており、消費者はインフルエンサーの姿勢を冷静に分析していることがわかります。
そして信頼の対象が、発信者個人の振る舞いへ移行している事実が読み取れます。消費者は「広告か否か」あるいは「企業発信かインフルエンサー発信か」という形式ではなく、その発信者が自分ごととして商品を捉え、誠実に語っているかどうかという「文脈の誠実さ」を厳しく吟味しているのです。この環境下で求められるのが、本特集のテーマであるUGCとPGCの高度な統合です。
統合型マーケティングにおけるPGCの役割は、企業がブランドの哲学や世界観を真摯に伝える点にあります。いわばブランドが何者であるかを示して共感の土台を創る情報伝達です。
一方で、UGCは「実際の商品はどうなのか」という、第三者の言葉による「確からしさ」を担保するための情報伝達であると言えます。PGCが理念や事実を伝え、UGCが感情や実感を伝えると言っても良いでしょう。SNS時代のマーケティングでは、そうしたPGCとUGCの両輪が大切なのです。
ここで重要なのは、インフルエンサーを単なる「情報を拡散するためのメディア」として捉えないことです。彼らはブランドの世界観を情報の受け手の生活文脈へと翻訳してくれる「共創パートナー」なのです。
信頼を再構築している先進事例では、彼らとの中長期的な関係構築を重視しています。一過性の拡散力に期待したインフルエンサーマーケティングではなく、彼らに商品を実際に長期間使用してもらい、その過程で生まれた「本心からの推奨」を、法的明示という透明性の上で発信してもらう。このように企業の熱量(PGC)とインフルエンサーの生活者としてのリアリティ(UGC)が重なり合うことで、今の時代の信頼は宿るのです。
「傾聴」から価値を発見しループを回していく
さらに近年の成功事例に見られるのは、UGCを単なる成果物としてではなく、ブランドの価値を再定義したり、さらに高めたりするための「傾聴」の対象として捉える姿勢です。もちろん「傾聴」自体は従来も重視されてきました。しかしUGC×PGC時代の傾聴は、従来の傾聴から一歩進めて循環させる点に特徴があります。
ある消費財ブランドでは、当初、ある価値を想定してPGCで訴求を行っていました。しかしSNS上のUGCを分析したところ、多くのユーザーは企業側が想定していなかったベネフィットに感動していることがわかったのです。傾聴によるこうした発見はすぐにチームで共有され、新たなPGC(公式発信)の訴求軸へと反映されました。すると、それを見たユーザーが「それは本当なのかな?」という検証をUGCとして投稿し、さらなる信頼と共感を生むというポジティブなループが発生したのです。
ユーザーが気付き、光を当ててくれたベネフィットに対して、企業がPGCで公式にその事実を承認して増幅させる。この「発信」と「傾聴」の両輪を丁寧に回す設計こそが、UGC×PGCの最適化の本質と言えるでしょう。
生成AIの普及によりコンテンツの量産が容易になりました。その結果、企業やインフルエンサーが発信するコンテンツや情報の「質」が重視される時代になったのです。ここでいう「質」とは、コンテンツや情報の背後にある「人間性」や「誠実さ」であり、それらが今まで以上に問われるようになっているのです。
例えば広告の場合、掲載されるメディアの信頼性が問われます。同様にWOMJの調査結果では、インフルエンサーに対しても、人としての人間性や信頼性が問われている現状が示されています。またステマ規制という法的要件が前提になった以上、その遵守は生活者からの信頼を得るための基本なのです。
クチコミマーケティング協会(WOMJ)
運営委員会委員長
東京工科大学
教授(博士/経営管理学)
藤崎実氏
広告クリエイター出身の研究者。TCC30Th会員。WOMJ運営委員会委員長の他に、日本広告学会常任理事、クリエイティブ委員会委員長。日本広報学会理事。日本マーケティング学会理事。広告賞および論文多数。

