第一線のマーケター・クリエイターが明かす、キャリアアップの奥義。今回は、メルカリで執行役員 兼 VP of Marketing Marketplaceを務める千葉久義さんにこれまでのキャリアについて伺いました。良い転職は、良質な情報を入手することから始まります。「こんなはずではなかったのに…」とならないための、転職情報をお届けします!
Q. 隕石の研究をしていた学生がなぜメルカリへ?
私はもともと研究者を目指し、大学院で地球惑星科学を専攻して隕石の研究をしていました。しかし博士課程へ行くには実力が足りなかったため、就職を決意したのです。ただ、研究漬けの日々を送っていた私は業界研究もしておらず、就職先として人気の企業もよく知らず。そんな自分でも知っていた電通へ「なんかカッコいい」というミーハー心で入社しました。
メディア局でテレビのメディアバイイングを担当して3年目、スタートアップを経営する大学時代の先輩から「テレビCMを打ちたいから、マーケティング担当として来てほしい」と声をかけられ、2014年に入社したのがGunosyです。プロモーションをはじめ、CFO直下で経営を学び、事業拡大に貢献しました。IPOを経験し、東証一部(現プライム)への市場変更も果たすなど、忙しくも充実した日々を送りました。
その5年後、上場前後の疾走感と楽しさが忘れられず、友人に誘われ、再びスタートアップに取締役COOとして参画。経営陣として資金調達にも携わりました。
スタートアップの経営は、常に資金ショートの不安と戦い続けなくてはならない緊張感があります。資金が途絶えれば、従業員への給与も払えず、事業運営もままなりません。そんな中で大企業との提携を実現させるなど、経営者としての視点を養う、良い経験ができたと思います。
そして2023年に、Gunosy時代の同僚からの誘いでメルカリに入社しました。
Q. 広告会社、スタートアップでの経験は今に活きている?
テレビCMのバイイングを担った経験は、その後のスタートアップから現在に至るまでの仕事で大いに活きました。通常は二の足を踏んでしまうような額の投資にも、臆せずに取り組むことができましたから。また、当時培った人脈のおかげで、今でも広告のことで困ったら相談できる人は多いです。
さらに、スタートアップでの経験から経営企画に大きな興味が湧きました。採用も担当したことで、良い人材を自社に引き込むノウハウも身に付いたと思います。企業としてまだ成長過程であることを前向きに捉えて、「こんな素晴らしい会社にしたいんだ」と自ら会社の未来を熱く語り、共感で人を巻き込んでいく力は、スタートアップだからこそ培えたものでしょう。
Q. マーケティングで大切にしていることは?
入社してわかったのは、メルカリのマーケティングは非常にデータドリブンだったこと。しかし、数値による可視化には限界があります。例えば、マーケティングの投資効果を分析し、次の意思決定に活かすことは重要ですが、商品の売上など、投資効果につながる要因は複数存在し、個々のマーケティング施策の効果の厳密な把握は極めて困難です。
だからこそ、大切なのは「わからなさを認めること」。科学のアプローチと同じように計測の限界の中で誤差の範囲を把握する、つまり「確からしさ」を見極めることが重要だと、私は思うのです。そこでメルカリでも定量的な価値だけでなく、「定性的」な価値に目を向けるべきだと考えました。
例えば、2023年には不要品の価値の可視化を目的に、イベント「メルカリで出会えるモノでつくったウチの実家」を開催。以前のメルカリでは、アプリの機能性を訴求するようなプロモーションが中心でしたが、お客さま目線でメルカリ使用時の共感を得ることに徹した同施策は、5日間で約1800人が来場するなど大きな反響を獲得。私含めマーケティング部のメンバーが皆、メルカリのヘビーユーザーだったからこそ発想できた企画だと思います。
Q. 若手マーケターへのメッセージをお願いします。
定量的な計測には限界があると忘れないでください。例えば、広告をクリックしたのは興味からか、単に間違えただけかは、クリック数のデータだけでは判断できません。背後にある人の意識や行動、つまり「人の心」まで数値から理解するのは不可能です。そこで1件1件クリックした人に理由を聞いたとしましょう、それだって人の心を完璧に理解したことにはならないのではないでしょうか。だからこそ、マーケティングは「確からしさ」にも投資をし、企業やサービスの新たな可能性を生み出すべきだと思うのです。
また、私はこれまでマーケティングを専門にしてきたわけではありません。今の役職はマーケティング責任者ですが、このポジションにいる理由は、マーケティングの外に出たことがあるからだと思っています。採用や経営の経験によって、マーケティングコストの原資の生み出され方、会社組織の動きを理解できました。たとえ大企業からスタートアップに転職しても、今はそれでキャリアが行き詰まる時代ではありません。
スタートアップの経験が大きな糧になり得るでしょう。転職でも異動でもいいと思います。自ら意図的に広い分野での経験を積み、戦略的にキャリアを築いてください。

株式会社メルカリ
執行役員兼
VP of Marketing Marketplace
千葉久義 氏
東京大学卒、同大学大学院修了。2011年に電通に入社し、メディア局でメディアバイイングを担当。2014年にGunosyへ執行役員・マーケティング責任者として入社し、東証マザーズへのIPO、東証一部への市場変更を経験。2019年からスタートアップの取締役COOを務め、2023年よりメルカリで現職に就任。「名前のわからないもの展」など、これまでにない斬新なプロモーション企画にも挑戦。

聞き手
株式会社マスメディアン
取締役
国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名以上の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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