いま「広告」は、従来の枠組みを超え幅広い役割が求められ、広告会社が担う領域も広がっている。そこでこれから求められるスキルとはどのようなものか。本座談会で集まったのは、これまで「宣伝会議賞」に応募し、受賞した経験を持つ4人。広告会社で働き始めてこの4月で3年目になる2人と、これから働き始める2人に、30年後の広告界を想像してもらった。

プロダクションマネージャー
Hさん
2022年4月、映像制作会社に入社。

コピーライター
Kさん
2022年4月、総合広告会社に入社。

大学4年生
Nさん
2024年4月、総合職として総合広告会社に入社予定。
コピーライター志望。

大学4年生
Yさん
2024年4月、総合職として総合広告会社に入社予定。
コピーライター志望。
情熱を注ぐ人たちに惹かれ広告会社への入社を決めた
─広告業界に進みたいと思ったきっかけや、決め手はなんでしょうか。
H:高校生のころに「宣伝会議賞」に応募して、中高生部門で賞を取ったことから、広告界がグッと身近になりました。大学生の間も広告会社でアルバイトやインターンをしながら、今に至ります。
N:そんなに前のことがきっかけになっているんですね…。他の業界をめざしたいとは思わなかったのですか?
H:多趣味で音楽やファッションも好きだったので、広告業界ならいろいろな趣味を生かせるかもと思ったんです。制作のメインはCM動画ですが、ショートドラマやMVに携わることもあり、好きなことが生かせていると思います。
N:広告業界に入りたいというよりは映像をつくりたかったのですか?
H:元々はコピーライターをめざしていましたが、考えている時間が楽しくもあり、つらくもありました。その頃映像関係の会社のインターンに参加して、興味を持ちました。
N:僕は3年生の時に、インターンで広告会社に行きました。その経験を通じて面白いことに価値があって、人が興味を持ってくれたら、それでご飯が食べられること。そしてそこに並々ならぬ情熱を注いでいる人がたくさんいることが分かったんです。またその頃、僕は個人で漫画のレビューサイトを運営していて、合計で2000冊くらいの漫画が売れていたんです。自分の言葉で魅力を伝えて、それで誰かを動かすことができたことを実感。内定が決まってからは、宣伝会議の「コピーライター養成講座」にも通いながら、コピーライターを目指すことにしました。
Y:Hさんと同様、私も「宣伝会議賞」中高生部門での受賞は転機でした。応募のきっかけは現代文の授業で広告を扱ったこと。直接「買ってください」と言うのではなく、世界観をつくってブランディングしていくことに魅力を感じたんです。職業として選んだ決め手は、広告会社ならば「自己表現」と「社会貢献」のバランスが取れた仕事ができると感じたためです。アーティストとして自分自身の“味”だけで勝負する自信が私にはなかった。他の人たちを巻き込みながらものづくりしていくことに魅力を感じています。
K:昔から広告を見ることが好きで、高校生の時に「宣伝会議賞」に参加しました。大学では英語を学んでいたので、それを生かせる貿易や通訳の仕事につくことも考えましたが、ちょうどその頃、今の会社でクリエイティブ職の募集があり、就職を決めました。
─広告界に対する印象はいかがでしょうか。実際に働いてみて、あるいは就職活動を通じて感じたことをお聞かせください。
H:広告制作を通して、今まで知らなかったことを知り、さらに好きになれるのは楽しいですね。
N:良くも悪くも、広告会社は自分たちを魅力的に見せるのがうまいと感じました。インターンも広告だと実感しましたね。
Y:インターンでの印象ですが、新規事業の立ち上げや開発など、いわゆる広告以外の仕事が想像以上に多いことが分かりました。それから働いている人たちが、一人ひとり違った濃い魅力があると感じています。
K:入社してみて「頭のいい人ってこんなにいるんだな…」と感じました。あらゆる広告事例が頭に入っていている、「歩くCM辞典」みたいなプランナーの方とかもいて驚きます。
─ご自身、もしくは同世代は現在、会社や社会からどんなスキルが求められていると感じますか?
K:部署内で言われているのが「クリエイターとしてより、人間として成長する」ということですね。自分の仕事のなかでは、生活者の気持ちをいかに持ち続けるかというのを大切にしています。
Y:「素直さと人に好かれる力」だと感じています。仕事をするなかでは、人間と人間がぶつかり合うことばかりです。だからこそ、この力が必要だな、と。インターンで出会った同期も、みんなキャラクターがしっかりしていて、“愛しやすい”人が多いと感じました。
K:確かに、企画が面白い人は、人として誰からも好かれている。“またあの人と仕事がしたい”と思われることが大切ですよね。
H:どの業界・職種にも共通するのは、コミュニケーション能力だと感じました。世代論という観点だと価値観の違いを取り沙汰されることが多いですが、その齟齬はコミュニケーション不足から生じるもの。自分自身も、伝える能力が必要ですし、受け止めるための努力をしていきたいと思っています。
N:「若者の気持ちを教えてくれ」と言われることはあります。でもあまり“Z世代代表”として意見を求められるのは、私自身がZ世代的ではないからか、難しいと感じます。流行りを知ったところで、当然一人ひとり価値観は違いますし。
H:確かに「若者から見てこれはどう?」ということは私もよく聞かれますね。でも、その広告のいちターゲットとして意見を伝えるのは、クリエイティブをより良いものにしていくためには大切なのかなとも思います。
─昨年「宣伝会議賞」の審査員の皆さんに広告界を目指した理由を伺ったところ、世代によって傾向が見えてきたように思いました。特に近年は社会課題の解決に寄与したい、と志望する学生も多いと聞いていますが、皆さんはいかがですか。
N:自分の「好き」を広めたいとか、推し活の延長で捉えている人は多い気がしました。
H:私たちのちょっと上の世代からは自治体CMブームがあってか、就活中には「地域活性化」について述べる人が多かったと感じます。
Y:私は大学の就活支援団体に所属しているのですが、ひとつ下の学年だと、何か大きな面白いことがしたい!という人が多い印象です。私の同期を見てみると、本当に幅広い個性の持ち主ばかりで一概には言えないですが、「新しいものをつくりたい」という意識があるように思います。
K:私が入社したときは、自分がどんなタイプか属性を選んでエントリーする採用方法があったんです。だから、自分の能力や強みをはっきりと認識している人が多かったですね。
これが好きなんでしょ?ではなくこれが好きなんだ!をぶつける
─30年後、ずばり、広告界はどうなっているでしょうか。
H:普段は目の前の仕事で精いっぱいで、あまり将来について大きく捉えたことがないというのが正直なところです。過去30年と比べてメディアも、広告会社が担う領域も広がってきていますよね。
N:僕もあまり先のことは考えないタイプなのですが…デジタル広告が増えるなかで、生活者にとって適切な広告配信のあり方も見直され始めていると感じます。そこで、「時間を損した」など、ネガティブに思わないようなものをつくっていく必要があると考えます。
Y:現時点ですでに世の中には「モノ」があふれていて、必要だから買うというよりは、自分はこうありたいから買う、という人が増えてきていますよね。例えば1枚で何十万円もするトレーディングカードみたいに、商品そのものの機能的価値で価格が決まるのではく、人がそれを愛している気持ちが価格に反映されるというか。そういう時代の広告って、商品を宣伝するというよりは、ブランドを育てるためのものになっていくのかなと思います。消費者は、良いと思ったものにお金を払ってくれる。ただ、その良いとされるものに「これが好きなんでしょ?」と寄せていくと嫌がられてしまうんですよね。あくまでもつくる側の、自分はこれが好きだ!という思いを社会対してぶつけることで、共感を得られるのだと思います。
K:働き方という観点で言うと、深夜の打合せはやめようと動いている人たちはたくさんいて。私たち世代も、これからCDやマネジメントする立場になったときに、率先して、従来の慣習を変えていかなければならないなと考えています。
─クリエイターとして、表現方法の変化や潮流についてはどう思いますか。
H:私は、その広告があることで世の中の流れが変わる可能性を秘めていることに、魅力を感じています。例えばゼクシィの「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」とか。表現方法が増えても、やはり言葉のもつ力は大きいなと。広告を目にした人の生き方を、やさしく肯定できるようなものをつくっていきたいですね。
N:表現の幅は広がっていると思います。昔は紙しかなかったのが動画になって、そのチャネルも増えている。一方でコンプライアンスも厳しくなっていますが、その一方で、制約を逆手に取った面白い広告もたくさんあるので、そこにはまだまだ希望が持てると感じています。希望を持っていかないとやっていけないですからね(笑)。
Y:私はお笑いが好きなんですが、CMに芸人が出演したときの「言わされている感」をもったいなく感じています。漫才も広告も日常を題材にしているので、親和性は高いはず。例えばM-1で、漫才の中で商品名を出したらメーカーから商品が届くとか、ファンが購入する現象も起こりますよね。そういう風に、もっと自然な形で共存できると思っています。
K:実際に働いていると、SNSなどマス広告以外を提案する傾向はあります。その中で、例えばXで企業が投稿した画像がバズって波及効果をもたらしたり、YouTubeのバンパー広告が話題を呼んだり、一度は邪魔者扱いされていたものが今、面白がってもらえている気がするんです。メインストリームが移っていくなかで、対応していかなければという緊張感はありますね。
─最後に、30年後、ご自身はどんなことをしていたいですか。
H:いま社会人3年目で楽しく仕事をしているので、30年後も楽しいと思える仕事ができていたら嬉しいです。この先のキャリアはまだ考える機会を持てていないのですが…偉くなれるなら、偉くなりたいです(笑)。
N:人としては、世界を楽しむ力を持ち続けていたいです。父がちょうど30歳上の52歳。グラフィックデザイナーという職業柄もあるかもしれませんが、父を見ていると、ギラギラ現役でずっと戦っているファイターがキラキラしてみえます。もし僕がつくる立場になったら、丸くはなりたくないなと思っています。また社会人としては、自分の得意な領域を極めていきたい。いまのところは「驚きとギャグ」を突き詰めて、見た人に損をさせないものを生み出していきたいです。
K:私も得意分野や専門分野を築いていって、好きなことを極めていけたら。常に自分から発信して、仲間を呼べるような魅力ある人でありたいと思っています。それから、できれば家庭も持ちたい。50代になった頃に「あまり家族といられなかったな」と思わないように、仕事と家庭のバランスはとっていきたいですね。
Y:そもそもこれから社会人になるというプレッシャーも大きく、まだそんなに人生があるのかと気が遠くなっています(笑)。私は、「大人」であることよりも「自分」であることを大事にしたいですね。これからいろいろな常識や規範に縛られていくと思うのですが、かっこいいなと思う先輩は、大人っぽくないけど自分らしい人が多い。私もそうありたいと思っています。