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「経験エコノミー」における製造業の課題と考え方

製品・サービスの『経験の現場』が鍵 経験価値からマーケティングを再構築する

  • 井上崇通氏(明治大学)

コロナ禍により、生活者の経験、生活スタイルに変化が生まれた。企業にとっても顧客接点のデジタルシフトが加速し、ブランドが提供する「経験価値」の変化が必要とされている。この時代における「経験価値」と「マーケティング」のつながりについて明治大学名誉教授の井上崇通氏が考察する。

〈経験エコノミーとは〉

消費の現場(経験)に焦点を合わせた経済のとらえ方。サービス・製品は顧客が利用して経験してくれなければ何の価値も実現できない。顧客の経験の現場に深く切り込んだビジネスモデルが必要となる。そこでの顧客の評価が長期的な関係構築につながり企業の存続可能性を高めるという視点からの経済のとらえ方を表す。

経験価値を基盤としたマーケティングの必要性

今日のコロナ禍において、顧客は自宅にいながらインターネットやSNSで情報を集め、友人や知人、さらにはさまざまな人々と情報交換・情報共有・情報発信をしており、商品は通販で購入し、食事はデリバリーを利用します。顧客にとってもこれまで経験しなかった生活のスタイルが常の姿となってきました。

その結果として、多くの企業がこれまでにない試練(経験)を強いられています。この時代の流れに対応できるか否かで、はっきりとした明暗が現れてきているのです。このことは、コロナ禍が収束してもこれまでとは異なる市場対応を迫られることを示唆しています。まさに、新しいマーケティングが求められる時代の到来です。

多くのメーカーは製品ができ上がり、店頭に積まれる所までが自分たちの仕事であって、自分の製品が売られて顧客に使ってもらう段階になると、もう自分の手を離れたと考えがちです。しかし実際にその製品が価値あるものになるのは、消費者が製品として家や、仕事の現場で使い始めた時点からであり、その経験の中で実現するものが、その製品の価値です。したがって、企業は消費者と二人三脚しているという意識を持たなければ存続できないし長期的な関係は築けません。

長期的関係の構築には、企業と消費者での経験価値の共有が前提となります。つまり、消費者の製品・サービスの経験の現場が重要となります【図表1】

図表1 経験価値を考慮したマーケティングの枠組み、「経験価値マーケティング」
「経験価値マーケティング」では購買後のプロセスが重視される。

サービス・ドミナント・ロジックと経験価値の関係とは?

そのような発想を前提にマーケティング戦略を再構築する必要があります。その先端を走る新たなマーケティングのロジックとして「サービス・ドミナント・ロジック(以下S-Dロジック)」が注目されています。最近、翻訳刊行されたP.コトラー著『コトラーのH2Hマーケティング』の中でも最先端のマーケティングのひとつとして紹介されているのがこのロジックです。

S-Dロジックでは、本テーマの「経験価値」が重要な地位を占めています。このロジックでは、企業が顧客に提供しているのは、それが有形のものであれ、無形のものであれ、そこに埋め込まれているスキル・ナレッジ(技能と知識)であり、これがサービスの本質であるとしています。そして、それこそ顧客が求めているものです。

この発想からS-Dロジックではメーカーも従来のサービス業も、すべて「サービス業」という枠組みに収斂されます。この企業の提供するスキル・ナレッジを生活や仕事のさまざまな場面で経験する中で、我々はそれぞれの価値を実現させていきます。これがまさに「経験価値」の意味です。しかもその経験価値を高めるには、顧客自身もより優れたスキル・ナレッジを持ち合わせている必要があります。その両者の優れたスキル・ナレッジが優れた経験価値を実現させることになります。これがまさに「価値共創」です。

経験価値を取り込む形での新製品開発・新サービスの提供は、古くは海外においてはNIKEがAppleと連携し、シューズ内に埋め込んだ活動量測定デバイスで取得した走行データをiPodに送る「NIKE+」の事例や、国内ではタニタの「タニタ食堂」などが紹介されていましたが、今日では飲食メーカー、アパレルメーカーなどをはじめとして多くの企業で実施されるようになってきました。

顧客経験の2つの分析軸「時間軸」と「心理面の軸」

顧客の経験価値は文字通り、顧客自身が生活の中で実感するものであり、それ自体は企業が直接踏み込めない領域です。しかし、今日この領域に深く関わることが求められるようになってきました。経験価値に戦略的に対応するには、いくつかの分析軸を用意する必要があります。ここでは、2つの分析軸を...

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「経験エコノミー」における製造業の課題と考え方

モノの価値に加えて「経験価値」が重視されるようになって久しい現代。顧客とのデジタルの接点を介して得られるデータにより、多くのインフラを持たずに魅力的な体験の提供に注力し、世界的な成長を遂げたUber やAirbnbなどの企業。これらの企業が起こしたデジタル・ディスラプションは既存産業、特にメーカーに大きな衝撃を与えました。図らずも、コロナ禍において顧客接点のデジタルシフトが加速し、リアルもデジタルも含めた一貫したブランド体験の提供が求められるようになった現在、顧客の視点に立った体験・経験の価値から、改めてマーケティング戦略や企業戦略を見直す必要が生まれています。技術オリエンテッド、プロダクトアウト思考が強いと言われてきた日本の製造業は、いかにして変革を遂げるべきなのか?いま踏み出すべき、変革の一歩を実務者、研究者と共に考えます。