ヤプリと宣伝会議は6月27日、インターナルコミュニケーションの推進を検討する研究会の第6回を開催した。大手企業19社の責任者が参加し、危機管理におけるインターナルコミュニケーションの重要性について議論した。

ヤプリのオフィス(東京・六本木)にて研究会を開催。
「インターナルコミュニケーション研究会
~企業行動に変革を起こし、イキイキとした組織を~」
趣旨
アプリプラットフォーム「Yappli」を提供するヤプリと宣伝会議が共同で研究会を2024年4月に発足。従業員一人ひとりが活躍できる状態を生み出すため、経営機能としての広報が果たすべき役割や、風通しの良い企業風土を醸成するインターナルコミュニケーションのあり方等を議論している。
「インターナルコミュニケーション研究会」第6回は、エイチ・ツー・オー リテイリング、エバラ食品工業、大阪ガス、オリエントコーポレーション、カッパ・クリエイト、JCOM、JTB、島津製作所、商船三井、昭和産業、住友ゴム工業、東レ、戸田建設、西日本旅客鉄道、日本特殊陶業、堀場製作所、三菱UFJ信託銀行、ヤンマーホールディングス、ルネサンスのインターナルコミュニケーション関連部門責任者が集まった(五十音順、敬称略)。またアドバイザーとして、複数企業においてインターナルコミュニケーションで豊富な経験を持つ岡部一志氏、そしてボードメンバーとしてヤプリが参加した。
今回の研究会のテーマは、危機発生時やリスクを未然に防ぐためのインターナルコミュニケーションの役割について。有事の際には、対外的な発信だけでなく、従業員に対する周知も重要であり、その対応姿勢によって従業員が企業に抱く誇りや信頼性にも影響が出てくるのではないか、またコンプライアンス違反など社内のリスクを未然に防ぐために、インターナルコミュニケーションの強化が必要ではないか。こうした課題意識のもと、今回の研究会を開催した。
コミュニケーション部門の役割
研究会の前半は、アドバイザーの岡部氏がリスクマネージメントにおけるインターナルコミュニケーションの重要性について解説した。
企業におけるリスクについて岡部氏は、自然災害や国際情勢などの「外的要因」、商品サービスの品質問題・障害や顧客とのトラブルなどの「事業関連」、そしてコンプラ違反や企業風土といった「社内関連」の要因があると整理。その上で「有事においてコミュニケーション部門は、メディア対応や炎上対策から着手する傾向にあるが、危機管理対策を行う組織にインターナルコミュニケーションのリーダーがコアメンバーとして参加できていると、従業員を重要な対象者として最初から位置付けることができる。『企業として、従業員やその家族に誇れるような誠実な対応をとれているか』『従業員が社外に正しく対応できるか』。そうしたマインドを重視するインターナルコミュニケーションのリーダーがいれば、危機対応における社内と社外のコミュニケーションを連動させ、従業員からも共感が得やすい対応を推進できる」と岡部氏は指摘した。
また、グローバル企業の例として、世界各地の潜在的なリスク情報を24時間体制で収集し、様々なケースを想定してコミュニケーションプランを準備する専門チームについて紹介。「そこでは、急に発生する危機に対峙する際、従業員のよりどころになる『Playbook』というバイブルを平時から用意していた。誰が読んでも伝わる文章なので対応が属人化しない。また対応後の反響や分析データ、他社のケースも蓄積し、常にアップデートしていた。対応しっぱなしではなく、次に活かせるようにしていくこと。これをインターナルコミュニケーション担当者の役割として設定しておくといいのではないか」と岡部氏は問いかけた。
危機発生時に誠実な対応、共感が得られるコミュニケーションを実践するには、経営者の継続的なメッセージ発信や、日々の従業員のマインドセット醸成といった積み重ねが大切になる。岡部氏は自身が経験した具体策として「コンプライアンスの日」の設定を例に挙げた。過去の不祥事を振り返り、リスクについて経営幹部と従業員が一体となって考え、学ぶ日を社内で毎年設けることで、継続したコミュニケーションが実現できる手法だ。

過去の出来事を継承する
研究会後半は、各社が事例をもとにグループワークを行った。
参加者の議論で浮かび上がってきたのは、「危機発生時、直後の情報共有で終わらせずに、継承していくことが、より良い企業カルチャーを醸成する」という視点だ。「上司が嫌がる悪い報告」をどんどん挙げていくことができるような、隠蔽しない企業風土をつくるためには、不祥事についてオープンに語り合う機会も必要だ。
参加企業の中には、過去に事故が起きたことを風化させないために、当時の社長が出した直筆メッセージや伝承したい企業スピリットについて、周年事業で配布する冊子に収録し、それをもとに従業員同士が語り合う機会を設けているケースもあった。
現場がリスクに強くなる
「バッドニュースファースト」の考え方を社内に浸透させ、従業員の心理的安全性を高めようとする動きも見られた。事故でケガの報告をする際「謝るのではなく対応策を考え行動することを促す」というのもその一例だ。
事故発生を受け、支店長や工場長などを対象に危機管理対策セミナーの受講を継続したところ現場の対応力が改善した例や、現場の初動対応が社外に評価され株価上昇につながった例も、研究会で共有された。
また新入社員に向け「ブランドを築くのは時間がかかるが、壊れるのは一瞬」というブランドに関する研修を実施し、意識を高めている企業もあった。そして「平時に準備をしていないことが有事を招く。有事と有事の間に平時がある」との考え方には参加者から共感が集まった。他社の危機を自社に置き換えて平時から考えていく習慣は、リスクに強い組織づくりに有効だ。
社内が先か、社外が先か
有事のアナウンスは、社外が先か、社内が先かについては、参加企業によって意見が分かれた。「社外が先」の企業は、情報が意図せず社外に漏れるリスクを避ける意向があった。一方で「社内が先」の企業は、社外に発信する直前に社内に共有をしており、従業員が「報道で有事を知り、エンゲージメントが下がる事態」を避ける配慮をしていた。有事における社内の情報共有は1回で終わらせずに、トップメッセージやパーパスに紐づいた対応方針を頻度高く発信することが重要だ、という意見も示された。
リスク低減の働きかけ
多様な文化を持つ従業員が集まるグローバル企業では、自社や商品・サービスの良さを従業員に体感してもらう機会を設け、顧客からの声を共有し「顧客の信頼に応えよう」という機運を高めることで、結果的にリスク低減につなげていく試みをしていた。リスクマネージメントの部門が性弱説にもとづき未然に危機を防ぐ活動をするのに対し、インターナルコミュニケーションの部門は「従業員に企業のファンになってもらうことでリスクを減らす」。そうした考え方が研究会メンバーから提示された。
また「正しいことを正しくやるための強い心は大切であるが、容易に持てるものではない」との考え方から、リスクマネージメント部門が主導して、行動プリンシプルを策定し、不祥事事例集を共有、社内研修を推進する企業もあった。過去の不祥事の教訓を体系化しながら、リスクマネージメント部門とインターナルコミュニケーション部門が連動すれば、相乗効果が見込めそうだ。
危機管理とインターナル コミュニケーションのヒント
・危機管理にインターナルコミュニケーションの担当者が入り、従業員が誇りを持てるような企業対応を実現する
・危機直後だけでなく、継続して社内にメッセージを発信し、得られた教訓を蓄積、活用することで、リスクに強い企業風土を目指す

お問い合わせ
株式会社ヤプリ
Webサイト:https://yapp.li/
住所:〒106-6241 東京都港区六本木3-2-1 住友不動産六本木グランドタワー 41階
TEL:03-6866-5730
E-mail:mktg@yappli.co.jp